【22】ヴィオラーノの休日④ 芸術祭

 芸術祭が始まった。


 ルイス、エステル、カンデラリアは会場である芸術城の前でアートと待ち合わせし、城門を通って、中へと入ったところ――。


「わー。やっぱりすごい人です!」


 エステルが、パンフレットを抱えてキョロキョロしながら言った。


「まさかこれほどとは。まるで新年の祭りのようだな」


 ルイスは初めて来たので、その人の多さに驚愕した。


「今年は特に人が多い気がするな……。気のせいかな? いや~、人が多いから暑いのなんの……おや、ルイス君、君ほとんど汗かいてなくない?」


「火属性だからですね。熱気には割と耐性が」


「うわ、便利だね。うらやましいよ」


 アートが、自分のシャツをつまんでパタパタした。

 

「これだけの人ですから、迷子にならないようにしませんとね。まあ、近くに護衛もいるから大丈夫ですけども」


「はーい! ……って、あっ」

 良い返事をした後に、人の波に流されそうになるエステル。


「あ……ほら」

 少し離れている護衛よりも早く、ルイスが手を取って引き戻す。


「あ、ありがとうございます」


「あらまあ、言った先から。ルイス、ここの通路を抜ければ人はまばらになるから、そこまでそのままエステルの手を引いてもらえるかしら? 私、心配ですの」


「わかりました(カンデラリア様、あなたは神か)」


「す、すみません。でも助かります。(そういえば、去年までは、お父様が手を繋いだり肩車してくださってたわ……)」


 ルイスとエステルは、そのまま手を繋いで、人だかりのなか、歩いていく。

 それについていくカンデラリアとアート。


「……わざと、手を繋がせたね?」

 アートが少し細い目でカンデラリアを見た。


「なんのことかしら?」

 カンデラリアは、涼しげな顔でにんまり笑った。


「そういえば、キミも涼しそうだね」

「風属性ですから、ちょっと自分の周りの空気の流れを良くしておりますわ……ほら、こんなかんじに」


 カンデラリアは、アートに、名前もない風魔法の術を施した。

 

「うわ、断然すずしい!!」

「ふふふ」


 そんな風に和気あいあいと入城する4人であった。


 入城通路を抜けると、とたんに広大な庭園に出た。

 ところどころに、出店もある。


 まずは、ルイス以外の部員が出展した油絵を見に行くことにした。

 

 壁にはたくさんの絵画がびっしり飾られており、フロアは決まっていても、自分たちの絵を探すのがとても大変だった。


 絵の一つ一つには、番号がついており、それを投票用紙に書いて投票箱に入れに行く。それが受賞者を決めるのだ。


 ルイスはもちろん、エステルの絵にいれた。


 彼女のことが好きだから、というのもあるが、彼女が描く絵も実は好きだった。

 エステルの絵はぬいぐるみと花を並べた、実に可愛らしい絵だった。


 温かみを感じる、優しい絵。リアル過ぎずかといって抽象に傾いているでもないその作風が好きだった。


 4人は、4人共が共通して見たかったフロアを見て回った後、その庭園に戻ってきて、次は自分たちが見に行きたいフロアを、各自で行くことにした。


 ルイスはエステルと同じルートへ行くことになった。

 というのも。


 前日、ルイスは、パンフレットを見てもどこへ行くかピンと来ず、


「どこに行くか見当がつけれんな……」


 と、ポツリ、と漏らしてしまった。すると、


「私と同じルートで良ければ、ご案内しますよ!」


 それを聞いたエステルが、ルイスを案内してくれることになったのだ。


「先輩は投票する絵は決まりました?」

「ああ。おまえは?」


「私は、これから見に行く、このヴィオラーノの国王様の絵にすると思います。毎年素晴らしい作品を提出されるのですよ」

「ほう。そういえば美術の教科書にも何点か載っていた気がするな」

「載ってます載ってます! 私達の学院の美術教科書の表紙もそうですよ!」

「そういえば、そうだったな。作者の名前が端のほうにあった」

「ええ。そうやって身近なところでも良く見るものですから、親しみも深いのです、あ、あった」


 すごい人だかりだったが、絵もかなり大きく、遠くからでも良く見えた。

 今年の絵と合わせて、今までの他の絵も展示されているようだった。

 先ほど話題にあがった教科書で見た絵もあった。


 うん、同じ絵だな、くらいしかルイスは思わなかったが、エステルはどの絵にも見入っている。


「(……本当に絵が好きなのだな)」


 恐らく許されるなら、この国に留学したいのだろうな……と、ルイスは思った。


 集合場所へ戻る最中、ルイスは言った。


「……オレはお前の絵に投票した」

「えっ!! 組織票!?」

「なんだそれは」

 ルイスは笑った。


「確かに応援の思いもあるが、オレはちゃんとお前の絵を評価した上で入れた。オレはお前の絵が好きだぞ」


「……」


 エステルが、少し立ち止まってルイスを見上げた。


「ん?」


「きれいとか、上手だとか言われるより……好きだって感想を貰えるたほうが、私、とっても嬉しいんです……ありがとうございます!」


 エステルが少し目を潤ませて微笑んだ。


「――。そ、そうか」


 ルイスもほほえみ返したかったが、さすがに気恥ずかしくなって少し目をそらしたのだった。


 その後、全員で合流した後は、出店で買い食いしてみたり、土産物屋で新しい絵筆を購入するなどショッピングを楽しんだ。


 明日もここへ来る。


 ――明日は投票結果の発表と舞踏会だ。


 それが終われば、次の日は帰る準備をして解散だ。

 楽しい夏の日はあっという間に過ぎて行くのだった。

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