【21】◆ヴィオラーノの休日③ 公爵令嬢の釣書選び
「やあ、久しぶりだね、君たち」
次の日、ジョンパルト邸のプライベートビーチにアートがやってきた。
「アート部長! ごきげんよう!」
砂浜で城を作っている、可愛い水色ワンピースの水着を着たエステルが立ち上がって部長に挨拶した。
カンデラリアはパラソルの下でやはりワンピースの水着を着て上着を羽織り、なにやら書類を手に、くつろいでいた。
女子二人は、色違いのおそろいの水着にしたようである。
ちなみにカンデラリアは薄い藤色だ。
「(私やエステルが高学年になれば、こんな水着姿で、家族ではない異性と水遊びなんて、できないからね。ふふふ、水着姿の二人をウォッチできるわね……アート部長、絵を描いてくれないかしら~)」
密かにスケッチブックと画材の用意はしてある。
なんとかして水着デート絵を入手したいと機会を伺っているカンデラリアであった。
「おや、ルイス君は、魚の観察かい?」
アートは浅瀬にいるルイスに目をやった。
「そうなんですよ。シュノーケルつけて、ずっと入りっぱなしです」
エステルがペタペタと城を作り続けながら言った。
「気持ちはわかるな。ヴィオラーノの海は温かいからね。カラフルな魚がいて、あんな浅瀬でもわりと見応えがある」
確かに美しい光景が見られるが、ルイスの場合、エステルの水着姿を直視できないために潜り続けているだけなのだが。
「え、そんな楽しい世界が覗けるんですか! ルイス先輩は、そんなことちっとも教えてくれなかったです!」
「エステル。シュノーケル、あるわよ。あなたも見てきたら?」
カンデラリアが、エステルに勧める。
「え、じゃあ皆で一緒に見に行きましょうよ」
「そうね。でも私はちょっとこの書類を整理してしまいたいから、先に行っててくれるかしら」
「わかりました。早く来てくださいね! ついでにきれいな貝殻さがそーっと!」
エステルはシュノーケルを手に、海に入り、ルイスのいる方へ向かった。
「(やったね☆ そしてアート部長にはここにいてもらわないと) アート部長、ここに来るまでの喉が乾いたのでは? 冷えた果実水を用意させますね」
侍女が果実水を運んできて、それをアートは受け取る。
「ありがとう。ちょうどお願いしようと思ってたんだ。……ところでその書類はなんだい? 結構たくさんあるようだけれど。宿題……ではないよね。せっかく海に来ているのに切羽詰まった公爵家の書類仕事でもあるのかい?」
「ああ、これ釣書ですの。切羽詰まってはいないのですけど、夏の終わりまでには選び終わらないといけないんですの」
「つ……!?」
アートが果実水を吹きかけた。
「あらま、大丈夫ですの?」
「し、失礼。大丈夫だ。……だけど。すごい数だね!?」
「そうなんですの。これでもお父様による一次審査を通り抜けた方たちなんですのよ。今は私による二次審査ですの。これを通過した方達はさらにまたお父様の最終審査へ行きまして、残った方たちと秋からお見合いですの。……こんな時にって思われるかもしれませんが、合間合間に少しずつ見ておきませんと、判断を誤りそうですので」
「……秋からお見合い。なるほど……、これ、どっちが君の審査を通った山? 見ても良い?」
「こちらが私が通した方たちですね。別に見ても良いですけど、口外しないでくださいね。一応、秘匿すべき情報ですし……」
それはもちろん、と言いながらアートは丸いメガネをかけなおして、審査が通ったほうの釣書をパラパラ見た。
「……え、こっちは通した人たちだよね?」
「そうですが、どうかしまして?」
「君と10歳以上離れてる人ばっかりじゃないかい……?」
「ええ。私、そういう方が好みですの(だって前世アラサーの記憶があるのですもの~。少なくとも20歳以下のおこちゃまなんて無理だわ)」
「ジジ専!?」
「(この世界そんな言葉あるんだ)!? それはちょっとあんまりですわ、アート部長」
「はは、ごめんごめん」
カンデラリアが、そこでずいっと、スケッチブックを差し出す。
「謝罪するくらいなら描いてくださいまし」
カンデラリアは、ルイス達のほうをチラチラ見ながらお願いする。
「……君って子は。……やれやれ、貸してごらん」
「ありがとうございます!!」
「このぶんだと、舞踏会の彼らもスケッチさせられそうだなぁ」
「まあ。本音ではお願いしたいと思っていますけどね? さすがに舞踏会では、わきまえるか、誰か絵師を雇いますわ」
カンデラリアはフフっと笑ってそう言った。
「雇ってまで!? ……まあ、でも。それなら良かった。僕も君とダンスを楽しみたいからね」
「ええ、楽しみましょうね」
カンデラリアはそう言いながら、浅瀬の二人を見やる。
ほほーう、そう……エステルが欲しがってるきれいな貝を探し始めたわねルイス……。
あっ。エステルが転けそうになったのを抱きとめた!!
うっわ、二人共、顔あかああい。
いやふううううう!!
内心は完全にヤバい人だったが、表面は涼しい顔で海を眺める美少女だ。
アートはそんな彼女を見つめて、頼まれた絵とは別に彼女の横顔をスケッチするのだった。
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