【20】ヴィオラーノの休日② ダンスを練習しよう


 そして、ジョンパルト邸の広いホールで練習をはじめた二人は――


「全然踏まないじゃないか……」

「どういう苦情ですか!? そしてどこか残念そうなのは何故ですか!?」


 共通の話題や共同作業というものは、普段話にくい相手であっても、会話を盛り上げるもので、二人は楽しく会話しながらダンスしていた。 


「褒めているんだが?」

「そうなんですか? 低い声で仰るから、てっきり……。えっと……ありがとうございます。ルイス先輩もすごく踊りやすいです。それに、家だと大人とばかり練習するので……」


「なるほど大人よりは背丈は近いな」

「はい! そういえば、同じ年頃の方と踊ったのは初めてです!」


「お(オレが……初めて、だと!?)」


 氷の貴公子は顔がニヤけそうになるのを、そのデフォルトの顔で耐えた。


「?」


「……おう。だが、同じ年齢のやつの踊ったことがない……って、子供が集まるパーティも今まであっただろう?」


「それがいつも、女の子で集まるパーティばかりで」


「(……お義父さ……じゃなかった、それはあつまかしい。だめだ。だが……クラーセン伯爵、グッジョブ……!!) そうか。お前の初めてのダンス相手がオレで……光栄だ」


 どもりそうになるのを堪えて伝える。


「こちらこそ、光栄です!」


 長旅の疲れもどこへやら、二人は楽しくダンスの練習を楽しんでいた。

 カンデラリアは、そのフロアの隅に設けられたソファでくつろぎながら二人の様子を見て――


 なんで! アート部長ここにいないの! 描いてほしい!!


 何故今日ここにアートがいないのか、と悔やみつつも、自分の愛しいキャラクター達が楽しそうに踊るのを見て、幸せを感じていた。



******



 その後、ルイスが割当られた部屋へ戻ろうとしたところ、他家の侍女に呼び止められた。


 聞けば、エステルに長年使えている侍女だという。名前はマーサ。

 侍女は、侯爵令息に話しかけた無礼を謝罪したあと、


「昔、エステルお嬢様にお手紙を頂いたかと思うのですが……覚えていらっしゃいますか?」


 と切り出された。


「ああ、昔一度。それが何か」


 忘れるはずもない。

 とても悩みながら書いた手紙だ。

 花も一生懸命選んだ。そして返事の無かった手紙。


 そうだ……あれでは許してもらえないのだった。

 思い出して、先程エステルとダンスを楽しんだ自分が間抜けに思えてきた。

 謝ってもいないのに……。


「二枚目のお手紙が添付されておりまして……間違いではないでしょうか。お手紙に、『謝らないこともない』と書かれていましたが……」


「……へ?」

 氷の貴公子とした事が、間抜けな声が出た。


 な……なんだとおおおおおおお!!!!

 ルイスはそのまま、口をあんぐりあけたまま、真っ赤になって固まった。


「大変、差し出がましい事を申し上げましたが……お伝えしたほうがよろしいかと判断致しました」


「いや、大丈夫です。……助かった……ありがとう……」


 マーサはその言葉とルイスのその様子に、優しい微笑みを浮かべて一礼したあと、去っていった。



 ルイスは自室につくと、バルコニーへフラフラと出て、そこにあるテーブルに手をついた。


 「うわ……」


 まさか、そんな事になっていたなんて!


 返事が返ってこなかったのは、あの事を許す許さない以前に――


 手紙が失礼すぎる!!!


 このまま身を投げたい!!

 やらないけど!!


 そのまま、しゃがみ込む。


「……謝ろう」


 このバカンス中に絶対に謝ろう。――絶対に、だ!!!!



 ルイスは、今までいつ謝ろうと思いつつ、その期限を定めていなかったが、ようやくその心が決まったのだった。





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