【19】ヴィオラーノの休日① ジョンパルト邸到着。


 夏休みが始まった。


 ルイス達はそれぞれ、期末テストも、各々それなりに満足のいく結果を出した。


 そして約束のヴィオラーノ国芸術コンクール祭へ、ルイスとエステル、そしてカンデラリアは、カンデラリアの別荘へやってきた。


 滞在は夏休みのうちの一週間。


 各家門とも、護衛騎士や侍女がつくという結構な大所帯であった。

 それらは全てジョンパルト公爵家の別荘に宿泊する。


 『ヴィオラーノ芸術祭 -Summer-』は2日間開催される。

 冬もあるらしいが、祭りとして沸くのは夏らしい。

 夏は投票があって順位を付けられる。冬はただの展示会らしい。


 ルイスがジョンパルト邸につくと、先に着いていたカンデラリアに迎えられる。


「エステルもさっきついたばかりよ。サロンにいらっしゃいな、冷たい果実水やらお菓子やら用意させてあるわ」


「ありがとうございます」


 案内されると、サロンで楽しそうにヴィオラーノ芸術祭のパンフレットを眺めているエステルがいた。


「……よう」

 

 久しぶりに見たエステルは――


「あ! ルイス先輩! こんにちは!」


「(ぐふっ……。ポニーテール……)」


 ルイスはさり気なく、口元を抑えた。

 ポニーテルに涼し気なワンピース姿の私服エステルを見て、昇天しそうになったが、こらえた。


 学院ではハーフアップに制服という、令嬢らしいスタイルだった為、その見慣れない姿が胸に来る。


「(美術部入ってよかった……神様ありがとう。将来大人になったら神殿へのお布施をしっかり行います……)」


 妙に喉が乾いたので、果実水を煽るルイス。


 なにやらクスクス笑うカンデラリア。


「道中喉かわいたでしょう? 暑いですものね、この国」


「そう、ですね。暑い、です」


「明日は、うちのプライベートビーチへ行きましょうか。泳げますのよ。水着は用意してないでしょうから、あとで商人を呼びますわ」


「み、水着……」

「わあ、楽しみです! 日に焼けちゃいますね!」


「あら、大丈夫よ。日焼けしないように魔法をかけてくれる業者がいるから」

「抜かりないですね! すごいです、カンデラリアお姉様!!」


「フフ、そうよ、私は抜かりのない女なのよ……」


 抱きついてきたエステルを抱きしめて頭を撫でながら、誰にも見えないように薄笑いを浮かべるカンデラリア。


「(そこへアート先輩もお呼びしているから、スケッチしていただこう……ふふふ水着デートスチルげっつ……)」


「(水着? 水着ってあれ? あれだよな? うん。神様……すぐにお布施すべきですか? ここから一番近い神殿はどこでしょうか? それともオレは短命なのでしょうか?)」


 エステル以外、脳内は煩悩だらけだった。


*****


「コンクール用の城? そういえば聞いたことがある」

「そうなんですよ! ホントは美術館なんですけど、ヴィオラーノ城と大きさが変わらないと言われてます!!」


 エステルが目を輝かせてルイスに言う。

 とても楽しそうだ。


「そこに、国中、もしくは外国からも寄せられた美術品が展示されるんです! 実はとても三日間では回りきれませんよ!」


 カンデラリアは扇を開いてパタパタしながら、説明するエステルとされるルイスを微笑ましく見ている。


「だからこうやって……パンフレットをチェックして、どこを見に行くか予め決めておくわけです!」

「なるほどな。詳しいな、エステル」

「実は、毎年来ています! 両親抜きでくるのは初めてですけど!」


「そうそう、ルイス。スーツはもってきたでしょうね」

「ああ、たしか三日目に舞踏会があるとか言ってたのは覚えていました、持ってきました」


「平民のためのホールで気軽に踊るのでもよろしいのですけどもね、私達は貴族のためのホールへ行くべきでしょうから」


「夜に子供が参加できるパーティってなかなかないですよね! 楽しみです。私は昨年までは参加させてもらえなかったんですよ! 貴族ホールから眺める花火が最高にきれいらしいじゃないですかー! 見たかったんですよ!」


「あら、じゃあ今年は初めての参加なのね。そうそう、あなた達二人がパートナーで参加してちょうだいね」


 ……なんだと?


ルイスは、胸がドキリ、とした。


「……? パートナーが必要なんですか?」


「ええ。貴族ホールは子供も参加できるプチ社交界ですのよ。子供だからご家族がパートナーの家門が多いけど」


「パートナーが必要だったのは知らなかったです! え、でも。それじゃカンデラリアお姉様は、パートナーどうされるのです?」


「アート部長にもうお願いしてあるの。従って、あなた達がパートナー。他にあてがあって? (ふふふ、抜かりなーし!)」


「「……」」

 一瞬、二人は無言になった。


「いえ、ありませんね。……エステル、よ ろ しく頼む」


 少し声がこわばったが、なんとか言えた。


「あ……はい、ルイス先輩。よろしくお願いします(あ……。美術部入部の時みたいに、”よろしくしないとはいってない”、とかは言わないんだ……一瞬言われるんじゃないかと思っちゃった)」


「そうだ、うちのホールを貸してあげるから、二人で練習して合わせてみなさいな。というか二人共ちゃんと踊れるわよね?」


 内心でニヤつきながら、表では涼しい顔のカンデラリアは次々と策を打ち出す。


 ……!?


 神様……神様……、オレの誕生日は5月なんですが、神様? こんなご褒美をもらえるほどオレは何か良いことをしたでしょうか?

 将来は司祭をこころざせということでしょうか?


 そんなことを思ったルイスではあるが、ある意味神である作者は目の前にいる。


「大丈夫です、未熟ではありますが、レッスンは受けています!! ……あ、ルイス先輩、足踏んじゃったらごめんなさい……」


エステルが予め言っておきます、とそう言ってきた。


「大丈夫だ。いくらでも踏めば……いい」

「やだ、さすがにそんなに踏みませんよ」


 エステルがにこやかに笑うと、ふとルイスも緊張がとけて、


「じゃあ、よろしく頼む。エステル」


 やんわりと微笑みをエステルに向ける事ができた。


「は、はい……」

 その微笑みを見て、エステルは少し頬を染めたのだった。

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