四日目 二人目 月野視点



 四日目 二人目 月野視点



 ピリリリ、ピリリリ。


 電子音が部屋に鳴り響く。

 枕元の通信機能の無い携帯電話のアラームを止めると、もう一度時刻を確認した。


 十七時四十五分。

 そろそろ夕食の時刻だ。


 三日目に寝ていなかった分を四日目にまとめて眠ったので、今日は何も食べていないし何処にも出かけていない。

 軽くストレッチをしただけで、身体の彼方此方からパキパキと音がした。


「行きますか」


 シャワーと着替えを五分で済ませ、鍵だけ持って部屋を出た。




 ホールに出ると、火狩と日谷の二人がエレベーターに向かって歩いているのが見えた。


「やぁ、久しぶり」


 二人の近くまで歩み寄ってから皮肉の意味も込めて挨拶をしてみると、火狩は一瞬パッと笑顔を見せたが、すぐに日谷の方に視線を移して俯いた。日谷は「そうね」とコチラに視線も向けずに応えた。


 違和感を覚えたが、コレだけでは確信出来ない。もう少し様子を見てみよう。


「昨日も一緒に食堂に来てたけど、待ち合わせでもしてるの?」


「えっと、それは」


「火狩さん」


 日谷が首を左右に振りながら名を呼んだだけで火狩は口を閉ざした。


 なるほど。


 日谷が火狩に何か吹き込んだようだ。


 火狩の様子から察するに「月野は怪しいから近づくな」といったところだろうか。


 日谷の方も、”二度三度不自然な対応をすれば、月野を疑っていることが本人にバレた”と勘付いただろう。


 なるほどね。


「共同生活も四日目。夕食の時ぐらいしかまともに顔を合わせないから、あまり共同生活という感じはしないけれど、もう半分過ぎたのか」


 あえて火狩にだけ視線を向けながらボヤいてみた。火狩は何かを言おうと口を開いたが、先程と同様に日谷にチラリと視線を向けるとそのまま口を閉ざした。


「”もう半分”? ”まだ半分”の間違いじゃなくて?」


 日谷が挑発するように睨みながら話に割り込んで来た。隠すつもりがあるのか無いのか、自分の事を疑っているというオーラが駄々漏れしている。


「さぁ、どうだろうね」


 エレベーター前に到着したのでボタンを押すと、すぐに扉が開いた。


 嫌な沈黙が続く中、エレベーターは音も立てずに下の階へと動き始めた。




 一階に到着し、食堂に向かって歩いていると、内容は聞き取れなかったが誰かの話し声が聞こえた。


 この声は、金原と水嶋か?


 予想は的中し、食堂には水嶋と金原が先に席に着いていた。水嶋は金原と何か話をしていたようだが、自分達の姿が見えるとすぐに黙ってしまった。


「これで全員?」


 火狩が自分の席に向かいながらボソッと呟いた。


「いや、一人足りないよ。木村さんがまだ来てない」


 金原がチラッと木村の席に視線を移した。


「六時まであと五分。そのうち来るだろう」


 木村はいつもギリギリに来ていたので、誰も気にも止めなかった。




 全員揃うまで夕食は始まらない。


 木村の到着を待つ間、誰も口を開くこと無く、時間だけが過ぎていく。


 何気なく時計を確認すると、時刻は十八時五分になっていた。


「遅いね。何かあったのかな」


 金原が、独り言のようにも皆に問いかけているようにも聞こえる大きさの声で言った。


「寝てんじゃねぇの?」


 水嶋がテーブルに肘をつきながらボヤいた。


「彼が何処で何をしているのかについてなら、メイドに聞いた方が早いのではなくて?」


 日谷がそう言いながら手を上げた。すると、メイドがすぐに日谷の下へと歩み寄った。


「何でしょう、日谷様」


「一人来ていないのだけれど、呼んできて貰える?」


 メイドは部屋の隅に立っている別のメイドに視線をチラッと移してから言った。


「申し訳ありませんが、我々ではなく皆様でお迎えに行っていただく必要があります」


「私達が? 何故? 何処にいるかも分からないのに?」


「場所は説明致します。しかし、最初に申し上げた規則に則って、まずは皆様で遅刻者を呼んできていただきます」



 最初に申し上げた規則?


 言われてみれば、一言一句覚えているわけではないが一日目の昼食の後にこんなやり取りがあった。

 


『夕食は十八時から十九時の一時間。夕方の六時に全員が此処に集まってと決まっております。夕食の時間以外は自由行動ですが、一日に一回は必ず全員で顔を合わせるように」


『夕食への参加は必須事項です。夕食に不参加の場合はその時点で実験の妨害とみなします』


『誰かが寝過ごしたら?』


『我々が何処にいるのかお伝えしますので、皆様が食堂に連れてきてください。なお、何らかの事情で皆様では食堂に連れて来ることが出来ない場合は、皆様と一緒に欠席者の下へ我々も向かいます』


『食堂に連れて来ることが出来ない場合?』


『言葉通り、食堂に連れて来ることが出来ない場合でございます』



 なるほど。


 あの時はこのルールの真意まで分からなかったが、今なら分かる。


 つまりこういうことか。



 ”誰かを殺す、もしくは監禁しても、毎晩十八時に顔を合わせる必要があるのでそのタイミングで必ず発覚する”。


 ”人殺し、監禁の隠蔽は最大二十四時間”。



 まるで、誰かがいなくなることを想定したようなルールじゃないか。

 


「ハァ。どうせ何を言っても無駄なんでしょう? で、彼は何処にいるの?」


 日谷があからさまに顔をしかめながらメイドに悪態をついた。しかし、メイドは気にした素振りも見せずに淡々と答えた。


「映画館です」


「分かったわ」


 日谷が立ち上がると、少し遅れて火狩も立ち上がった。


「私と火狩さんは行くけど、貴方達はどうするの?」


 日谷が椅子に座ったままの自分達に視線を向けながら言った。


「面倒くせぇよ」


 水嶋が舌打ちをしながら呟いたが、金原が「まぁまぁ、一人でいるとまた何か言われるよ」と口にした。


「どうせ映画見てるだけだろ? わざわざ全員で行く必要なんかねぇじゃねぇか」


「それは、そうだけど。此処に残っててもやることないよ」


 金原の説得に納得したのかは分からないが、金原が立ち上がると水嶋も面倒くさそうに立ち上がった。


「行きゃ良いんだろ? 行けば」


 水嶋も行くだと!? これは予想外の展開だ。


 やはり、水嶋の手綱は金原に握らせておくに限る。


 残されたメンバーの中で唯一水嶋の注文履歴に目を通す事が出来るかも知れない金原。

 彼を味方に付けておいて正解だった。



 問題は”金原が本当に味方なのかどうか”。



 それだけだ。



「皆行くなら自分も行こうかな」


 皆が「お前も立て」と言いたげな視線を向けてきたので、その意思を尊重することにした。




 五階。映画館。


 受付に置かれている電光掲示板には『スクリーン1にて、現在「ゾンビハザード・アポカリプス」が上映中』と表示されていた。


 生物をゾンビ化させるウイルスの漏洩から始まった物語は、様々な国や人間の思惑によって世界中にウイルスが広がり、やがて戦争にまで発展して世界が終焉を迎える、といったストーリーだ。

 完結編ということもあり、映画館に見に行った覚えがある。


 スクリーンに入ると、ちょうど終盤のシーンが流れていた。




 大統領執務室には、恰幅の良い初老の男と細い身体の老人の二人がいた。

 恰幅の良い男が大統領で、老人が秘書だったはずだ。




「大統領! どうかお考え直しを。”ウイルス兵器”は条約違反です。どんな理由があろうとも、使用することは許されません!」


 秘書は、椅子に座る大統領に向かって唾が飛び散るのも気にせずに訴えた。


「ロバート、お前は俺が大統領になる前から実に優秀な秘書だったよ」


 大統領は椅子から立ち上がると、秘書の肩を強めに握った。


「俺はこの国の大統領として、この国の未来のために決断したのだ」


 大統領の手に力が籠もる。

 秘書は痛みに顔を歪めながらも反論した。


「”ウイルス兵器”を使用することがこの国の未来のため? 話が飛躍しすぎていますよ大統領。誰の入れ知恵です?」


「誰の入れ知恵でも無いさ。これは俺が考えた作戦だ。良いか、ロバート。『己が信念を貫くために最大限の努力をしろ』だ。俺はこの国のために”最大限の努力”をする」


 秘書は何度も唇を噛み、ようやく言葉を口にした。


「大統領。もう一度聞きますが、”ウイルス兵器”を使用するというのは本当にこの国のためですか? 私には、大統領が”ウイルス兵器”を使いたいがための言い訳にしか聞こえません」


 大統領は大きく溜め息をつき、秘書の肩をバンバンと強く叩いた。


「あぁ、ロバート。お前は本当に優秀な秘書だったよ。失くすには惜しい」


 大統領が隠しカメラに目配せをすると、スーツ姿の屈強な男達四人が執務室に流れ込むように入ってきた。そして、すぐに秘書の身体を取り押さえた。

 秘書は苦痛に顔を歪ませながらも、言葉を紡いだ。


「大統領。”ウイルス兵器”を使用するという事は、人の道を踏み外すということと同義です。何があっても、”ウイルス兵器”は使ってはならないのです。たとえそれが動物相手であっても」


「言いたい事はそれだけか? ロバート」


 自分の話に聞く耳を持たない大統領の顔を見た秘書は、全てを悟ったかのように目を伏せた。


「えぇ。それだけです」


「連れて行け」


 秘書はスーツ姿の男達に連れられて、執務室を出て行った。

 大統領はすぐに机の上の電話に手を伸ばした。


「私だ。”クリーン作戦”を開始しろ」




「きゃあああああッッッ」


 映画に意識を取られながら前を歩く日谷に着いて行くと、横にいる火狩が悲鳴を上げた。


 意識が一瞬にしてスクリーンから離れ、火狩の視線の先を追った。



 そこには、スクリーン中央の後方の席にてグッタリとした様子で座る木村の姿があった。



「ちょっと。木村さんッ!」


 日谷が座席の合間を縫うように木村の下へと駆け寄ったので、自分も急いで後に続いた。


 近付いただけで、嗅ぎ慣れない異臭が鼻を強く刺激した。


 木村の顔は青紫色に変色しており、目は虚ろ、口から涎がダラダラと垂れ、座席からはアンモニア臭が漂っていた。


 素人目であっても、眼の前の人物が既に手遅れだということを実感させる程に、木村から生気が失せていた。


「死んでるな」


 何気なく口から溢れたその言葉に、日谷は小さく舌打ちをし、火狩はその場に蹲って嗚咽を漏らし、金原は顔を伏せ、水嶋は大きく溜め息をついた。




 受付にいたメイドを呼んで、木村の容態を確認したが既に死亡していることが判明した。


「な、なんで。どうして!?」


 火狩が口元を手で押さえながら声を漏らした。


「火狩さん、落ち着いて。ゆっくり、深呼吸。出来る?」


 日谷が火狩の介抱をするために木村の側から離れたので、元々日谷が立っていた場所に滑り込んだ。



 木村の首元には線状の痕と引っ掻いたような傷があり、手の爪には血や少しばかりの肉片のようなものが付着していた。


 木村の座る席の肘置きには殆ど食べ終わったポップコーンとコーラが置かれており、足元には携帯電話の充電器のケーブルが落ちていた。



「なるほどね」


 土井の時と比べれば、この惨状から分かる事は多い。


「何か分かったの?」


 金原が後ろから覗き込むようにしながら訊いてきた。金原の言葉に、日谷が火狩の肩に手を置きながらも自分の方に視線を向けた。


「これは自殺じゃない。他殺だ」


「他殺ってことは、誰かが木村さんを」


 金原はそこまで言ってから、何か思う所があったのか気まずそうな顔をした。


「どうしてそう思ったの?」


「首に線状の痕がある。それに線状の痕を横切るように引っ掻いたような傷も。この引っ掻いた傷は『吉川線(よしかわせん)』だろう」


「よしかわせん?」


 そうか。


 自分にとっては常識の範囲内だが、ミステリーだとか刑事モノが好きでもなければ、『吉川線』という言葉は聞いたことすらないだろう。


「紐状の物で誰かに首を絞められた場合、被害者に意識があれば必ず抵抗する。紐状の物を何とか取り除こうと抵抗した際に出来た引っ掻き傷のことを吉川線という」


「その吉川線っていうのが木村さんにもあるの?」


 金原は恐る恐る木村の身体を確認しようとしたが、既の所で視線を逸らした。


 気持ちは分かる。


 ハッキリ言って、絞殺体は直視できるモノではない。


「あぁ、確かにある。それに、木村の手の爪には血肉が付着している。犯人を引っ掻いた可能性も零じゃないが、恐らく自分の首を引っ掻いたものだろう」


 いや、ここで確認しておくべきか。


「悪いが、袖の長い物を着ている人は腕を捲ってくれないか? そこに引っ掻き傷があれば、クロだ」


 そう言うと、この場に一気に緊張感が走った。


 しかし、該当者は少ない。


「長袖を着ているのは私と火狩さん、そして金原さんの三人よね」


 そう呟いたのは日谷だった。




 長袖の服を着ていた火狩、金原、日谷の三人がそれぞれ袖を捲ったが、引っ掻き傷がある人はいなかった。


「この場にいる全員の、顔にも腕にも傷が無いのなら、爪の血肉は本人の物だろう」


 木村は首を絞められて殺された。

 それは変わりようのない事実だろう。


「ねぇ。紐状の物って、そこに落ちてる充電ケーブルのこと?」


 金原が木村の足元に落ちている充電ケーブルを指差した。


「あぁ、恐らくな」


 これも確認しておくか。


 床に落ちていた充電ケーブルを拾い上げ、木村の首に近付けると「ちょ、ちょっとッ!! 何してるのッ!!」と、日谷が目を見開いて叫んだ。


「首の痕とケーブルの太さが合うか調べるだけさ」


 ケーブルを木村の首の痕に重ねると、太さは一致していた。それだけではなく、ケーブルの所々に傷や変な捻じれが生じていた。相当乱暴に扱われていたか、木村が必死に抵抗したために出来た傷だろう。


「犯行に使われたのは携帯電話の充電器のケーブルだ。首の痕とケーブルの太さが一致している」


 火狩がある程度落ち着いたからなのか、日谷が火狩の側を離れて木村の側へと歩み寄り、自分と同じように痕や周辺に残された物の確認を始めた。


「ケーブル以外は触ってないのよね?」


 日谷の視線は一切コチラに向いていないが、日谷が話しかけているのは自分だろう。


「手とか首元には若干触れた。まぁ、どうせ指紋は取れやしないから関係ないだろう」


「そうね」


 日谷は首元の痕をジッと睨んだ後に、出入り口の方に視線を向けた。


「何かあったか?」


「犯人は何処から来たと思う?」


 そんなの出入り口に決まってるだろ。


 そう思ったが、自分も日谷のように出入り口の方向を見た時に、日谷の言いたいことが分かった。


「この席からなら、出入り口が十分視界に入るな」


 七日館の映画館は普通の映画館よりも一回り以上小さい。半分程の大きさだろうか?


 シーンによっては暗くて見えないかもしれないが、余程映画に見入っていない限りはスクリーンの出入り口から誰かが入ってくれば、嫌でも視界に映る。


「木村さんが犯人の顔を見た可能性が高い」


 日谷は視線を木村へと戻し、肘掛けや太腿の辺り等を確認した。日谷が探している場所は手が自然と置かれるような場所だった。


「見た可能性は高いが、見た所で何かを残す余裕なんか無いだろ。絞殺だぞ」


「どうして無い前提で話を進めるの? ナニかあるかもしれないじゃない」




 日谷はしばらく確認を続けたが、新しい発見は無かったようだ。


「いわゆるダイイングメッセージみたいなものは無いようね」


「だろうな」


 日谷は一度深呼吸をしてから手を上げた。


「メイドに聞きたいのだけれど、映画の予約状況はどうなっているの?」


「『ゾンビハザード3』が十三時五十分から上映開始。『ゾンビハザード・アポカリプス』が十六時から上映開始。以上です」


「今流れている映画は何なの?」


「『ゾンビハザード・アポカリプス』です」


「へぇ。そうなの」


 日谷があまり納得いってないようなので、補足してやることにした。


「この映画は確かに『ゾンビハザード・アポカリプス』だ。一度見たことがある。二時間ぐらいの映画だから、夕方の四時から上映開始していたという話にも矛盾は無い」


 日谷は「ふぅん」と小さく呟いた。


「そう。ちなみに、誰が予約したのか。それと、誰が見ていたのかを教えて欲しいのだけれど」


「『ゾンビハザード3』『ゾンビハザード・アポカリプス』の映画の予約をしたのは木村様です。『ゾンビハザード3』の上映後に、『ゾンビハザード・アポカリプス』の予約をされました」


「一度に二本予約したのではなくて、上映後に予約をしたの?」


「はい。おっしゃる通りです」


 上映後にあらためて映画の予約をしたというのなら、十六時頃には木村が生きていたということになる。


「ただ、映画を誰が鑑賞したかは保証出来ません」


 やはりな。

 誰がスクリーンに入ったかは教えてもらえないだろう。


 日谷は再び手を上げた。


「追加質問。夕食の時間は六時からなのに、映画の上映は六時を過ぎても続けるの?」


「夕食の時間と上映時間が被ってしまう際には、予約の際にお伝えさせていただきます。今回は木村様が『夕食の時間になっても構わない』と仰っていたので、ご希望の通りに上映させていただきました」


 ん?


『夕食の時間になっても構わない?』


 木村がそんな事を言ったのか?

 文句を言いながらも、時間を守っていた木村が?


 あまりの違和感に、さすがに確認を取ろうと口を開いたが、先に言葉を発したのは日谷だった。


「待って」


 日谷がメイドを睨み付けた。


「それは本当に木村さんが言ったの?」


「はい。”確かに木村様がおっしゃっていました”」


「映画を見ているのなら夕食に参加する必要は無いということ?」


「いえ、そのようなことはございません。映画をご覧になられていても、大浴場を利用されていても、夕食の時間には食堂に集まっていただきます。本日も、スクリーンから全員退室されましたら一度映画の上映を中断しようと思っておりました」


 妙な言い回しだが、死体になっていようが木村が席に座っていたから映画は上映されたままだった、と言いたいのだろう。



 気になる点は残っているが、凶器である充電ケーブルと、おおよその犯行時刻が十六時から十八時ということは確認出来た。


 次に確認するべきなのは、全員の今日の行動だな。


 どう話を切り出そうか考えていると、誰かの腹の虫が大きな音を立てた。


「あ、ご、ごめんなさい」


 火狩が頬を赤く染めながら小声で言った。


「こんな時に不謹慎かもしれないけど、お昼に少ししか食べてなかったから、その、お腹が空いてて」


 あまりにも場違いな彼女の発言により、この場に走っていた緊張感がプツンと途切れた。


「それもそうね。確認すべきことは残っているけれど、一度食堂戻りましょう」


 日谷がスクリーンの出入口に向かって歩き始めると、火狩と水嶋が後に続いて行った。


「月野さんはどうするの?」


 金原の身体も、既に数歩だけ出入口に向かって歩み始めていた。


「現場で調べたいことは大体調べた。戻ろうじゃないか。食堂に」


 事切れた木村をそのままに、メイド一人をその場に残して自分達はエレベーターへと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る