三日目 惰性 水嶋視点
三日目 惰性 水嶋視点
時刻は十四時。
遊技場は相変わらず派手な電子音が飛び交っているが、今日は人の気配は無い。
殺人があった次の日にゲームをするのは不謹慎だとでも言うのか?
馬鹿馬鹿しい。
会ったばかりの女が殺されたぐらいでグチャグチャグチャグチャ何を考える必要がある?
俺はポケットの中から昨日拾ったメダルを取り出すと、親指の背に乗せて弾いた。
キーン。
メダルが回転しながら宙を舞う。
昨日の夜、脱衣所に落ちていたメダル。
犯人探しごっこに明け暮れてるバカ共の目を盗んで拾ってきたメダル。
国の通貨では無いことは確かなので、遊技場で使用するメダルだろう。
今日はこのメダルを使うような機種を遊ぼうと考えている。今まで現金使用のエリアしか行かなかったので、今は無料エリアを散策している。
メダルを使う機種を探していると、通路の一角にメダル交換機が置かれているのを発見した。
現金を投入する必要はなく、十枚、五十枚、百枚、五百枚と書かれたボタンを押すだけでジャラジャラとメダルが受け取り口に溢れてきた。
受け取り口に貯まったメダルを一枚手に取ってみた。
昨日拾ったメダルと同じモノだ。
大きさも重さも五百円玉に似たメダル。
俺はメダル交換機の側に積み上げられていたメダル持ち運び用の小さなバケツに、拾ったメダルと受け取り口に溢れたメダルを移すとその場を後にした。
メダルを使う機種は見つけたが、イマイチ唆られなかったのでしばらく彷徨いていると、一台のスロットを見つけた。
「先輩に誘われて初めて遊んだ機種だ」
あの頃は勝った負けたよりも、仲間と遊んだという事実そのものが楽しかったのかもしれない。
皆で麻雀をしながら風俗の予約の電話をし、時間になったらそれぞれ店へと向かい、”ヤることヤった”ら皆で再度集まって、缶チューハイとポテチを貪りながら「乳がデカくて上手かった」だったの「今までで一番デブス」だったのと報告し合う。
楽しかったな。あの頃は。
それに比べて今は何だ。
金欲しさに参加した訳の分からない共同生活で、俺は犯人だと疑われている。
クソが。
よりにもよって注文履歴を公開しろだなんて話になるだなんて。
俺の注文履歴を見たら誰だって犯人だと疑う。
だが、注文履歴を見られなければ問題無い。
突きつける証拠が無いのだから。
いや、”注文履歴を見られたところで俺がヤッたという証拠は絶対に出てこない”。
誰にも俺が犯人だと証明することは出来ない。
懐かしいスロットマシンの前に座り、メダルを投入した。
ジャラララララ。リールが回りだす。
最初は真剣に押す必要は無い。設定とテーブルの特定をするための確認作業だから。
ジャラララララ。カチカチカチ。
ハズレ。
すぐに次のゲームを開始する。
ジャラララララ。カチカチカチ。
ハズレ。
体感時間にして数分経ったかどうか。その時はあっさりと訪れた。
ジャラララララ。カチカチカチ。
パラパラパパー!
「お?」
思っていたよりも相当早く演出が始まった。激甘か?
ジャラララララ。カチ、カチ。
一呼吸。
リール配列は暗記している。
後は身体がタイミングを覚えているか。
ただ、それだけ。
カチ。
パパパパパー! パラパラパパー!
画面がビカビカと派手な光を放ち、スピーカーからはジャンジャカと音が鳴る。
「マジかよ」
こんなに早く引けるだなんて。
オマケに、しばらくは馬鹿でも絵柄が揃うモードに突入した。
「コレが現金だったらなぁ」
ジャラジャラと溢れてくるメダル。このメダルには何の価値もない。
メダルが次々とマシンから溢れてきたが、俺はメダル入れのバケツを用意するのではなく、そのまま床にぶち撒けた。
このメダルの価値はゼロ円なのだから。
その後も何度も何度もアタリを引き、気が付けば足元には無数のメダルが散らばっていた。
「ケッ」
ジャラララララ。カチカチカチ。
それにしても、最終日までどう過ごしたものか。
”唯一ヤれそうだった女”はもういない。
残った女はバカと本当のバカの二人。
どっちもあまり唆られない。
クソ。
ジャラララララ。カチカチカチ。
どうせ当たるので、画面も見ずにボタンをカチカチと押しながら惰性で遊んでいる時に、ふと思うことがあった。
誰が脱衣所にメダルを落とした?
俺は初日も昨日も、メダルを使うようなゲームをやっていない。
だから絶対に俺じゃない。
遊技場にいる間は基本的に有料エリアで打っていたので、出入りした人間を完全に把握しているわけではないが、遊技場で姿を見た覚えがあるのはオタクの何とかって奴とバンドをやってる金原とかいう奴だ。
いや、もう一人誰か見たような気がする。
興味が無かったので、その人影が誰なのかを確認してはいないが、オタクでも金原でもない奴を見た気がする。
誰だ?
まぁいいか。メダルの落とし主が分からないことに何か問題あるとでも?
いや、ない。
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