一日目 就寝前 日谷視点



 一日目 就寝前 日谷視点



 火狩や土井と別れを告げ、自分の部屋に戻った私はベッドの上で大の字に寝転がっている。


 疲れた。


 想像していたよりもずっと衛生的で不自由のない環境ではあったものの、ひたすらに疲れた。


 原因は分かりきっている。人間関係だ。




 月野。


 思いやりの精神は無く、すぐに人を煽るような発言を繰り返すが、論理的に物事を考える人間だと思えた。この中で一番私に近い人間かもしれない。そういう意味では要注意人物。



 火狩。


 悪い人ではない。が、良い人とも言いにくい。良くも悪くも感情的に物事を考えるタイプの人間で、気を遣わなくてはいけない場面が多くなりそうな気がする。



 水嶋。


 論外。



 木村。


 積極的にコミュニケーションを取ろうとしないのに、自分が好きな話題になると聞いてもいないのにベラベラと話し出す典型的なコミュニケーション下手。プライドは高そうだが度胸は無さそうなので、揉めることはあっても最後には折れるだろう。



 金原。


 バンドをやっていたという割には大人しい人物。それは偏見なのだろうか。それはさておき、何かしらの揉め事があるとすぐに場を宥めようとする。良く言えば共同生活の潤滑剤、悪く言えば事なかれ主義。彼が上手く立ち回ってくれることを切に願う。



 土井。


 最初に会った時から妙に懐かれている。懐かれること自体は悪い気はしないのだが、彼女から自分の意思をあまり感じ取れない。全てを他人任せにしているような気がする。私がいなかったらどうしていたというのか。火狩に懐いていたのだろうか。分からない。




 私は注文して届いたばかりの通信機能のない携帯電話のメモ帳に他の人の印象をメモすると、枕元に携帯電話を置いた。


 この共同生活は何なのだろう。



 ふと、月野が言っていた言葉を思い出す。


『偶然ですかね? 七日館、七人の参加者、七泊、そして地下を含めると七階ある。七ばかり並んでいる』


『この中に一人主催者側の人間がいる』



 月野の発言には彼自身が認めているように何の根拠も無い。

 だが、それを否定するための材料も無い。



 それに、誰も口にはしていないがこの館には明らかに不自然な所がある。


 それは、何処にも窓が無いことだ。


 外部との連絡手段を絶った環境にするのだから、窓が開かなかったりカーテンを開けられないというのはまだ理解出来る。

 だが、施設案内の時にザッと怪しまれない程度に確認してみたのだが、窓があったと思われる場所が見当たらなかった。壁に触れながら探したわけではないので、ちゃんと探せば窓があった痕跡を見つけられるかもしれないが、少なくとも目についた範囲では窓は影も形もなかった。


 廃ビルや廃ホテルを改装したのなら窓があってもおかしくないはずだ。


 窓の痕跡が無いということは、この館はこの実験のためだけに建てられたとでも言うのだろうか?


 そもそもの話、食料や備品について何も不自由の無い空間に若い男女を閉じ込めて、一体何を研究すると言うのだろうか。

 出発前の面談の時に聞いてみたが、先入観無しで実験に参加して欲しいという理由で教えてもらえなかった。



 何の根拠も無いが、嫌な予感がする。



 私はそういうスピリチュアルなモノを信用していないが、共同生活のアルバイトに受かった時からずっと胸の奥で何かがつっかえている。


 何を観察するというのだろうか。


 誰が何を何のために研究しているのだろうか。


 七日館の建設費、維持費、スタッフへの報酬、参加者への報酬、備品の用意等を考えると私の想像を超えるであろう莫大な金が動いているはずだ。




 分からない。何も分からない。




 いくら考えても答えが出てこない。疲れが出てきたのか急に瞼が重くなってきた。

 私は身体を起こして服を脱いで下着姿になり、布団に潜り込んだ。


 クリーニングに出した後の布団に似た匂いが全身を包み込んだ。この匂いは結構好きだ。


 周りの部屋の音は何も聞こえない。やることが無くて寝ているのか。それとも、遊技場なり映画館に行っているのか。


 慣れない環境での寝付きは悪い方なのだが、疲れもあってかすぐに意識が薄れていった。

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