一日目 自由時間 木村視点
一日目 自由時間 木村視点
昼食を終えると自由時間ということになった。
遊技場にあるゲームが何なのか確認するために真っ先にエレベーターへと向かうと、嫌味男とヤンキーもエレベーターに乗るために着いてきた。
最悪だ。
だが、ここまで来てエレベーターに乗らないのも目立つし、何故僕が我慢しなくちゃならないんだという思いもある。
仕方なくエレベーターの上昇ボタンを押し、三人で扉が開くのを待った。
三人しかエレベーターの前にいないということは、バンドマンと女達は食堂に残っているようだ。バンドマンのことだから女を食い散らかそうとしているに違いない。
気まずい空気のままエレベーターは上昇を続け、遊技場のある四階で停止した。降りようとした僕にヤンキーはわざとらしく強めにぶつかってきた。
腹が立つ。殺してやりたい。
ヤンキーは喧嘩慣れしてるかもしれないけど、僕はゲームとはいえ戦場を経験している。
ヤンキーの拳を華麗に避けて、渾身のパンチを顎にクリーンヒット。そうすれば格闘家だって倒せる。
出来るけどやらないだけだ。
それをしないのは僕が常識のある人間だからだ。ヤンキーのような弱者を虐めることに何よりの快感を覚えるような低レベルのチンパンジーとは違う。
嫌味男は遊技場で降りずにそのまま上に行くようだったので、扉が閉まる前に僕も降りた。
僕がエレベーターを下りた時には、ヤンキーは既に姿を消していた。
ヤンキーが興味あるのはパチスロか競馬ゲームか麻雀辺りだろう。その辺りに近付かなければこの広さの遊技場で出くわすことはない。
自分がゲームセンターで遊ぶのは格ゲーと音ゲーとガンシューだ。それらの筐体がありそうな場所を歩いていると、予想外の筐体に出くわした。
「ゾンビハザードの筐体!? 本物!? もう二十年も前の筐体だぞ!?」
世紀の大発見に思わず筐体に駆け寄った。
個人ブログや動画サイトでしか見たことがないシューティングゲームの筐体。僕がゾンビハザードに興味を持った頃にはゲームセンターから姿を消していた筐体。
その筐体が、目の前で電源の入った状態で置かれていた。
「マジか」
予想外の出合いに恐る恐る近付き、銃の形をしたコントローラーを握る。画面には「FreePlay」と表示されており、トリガーを引けばそのままゲームが始まる状態だった。
「他にもスゴい筐体があるかもしれない。コンプするとなったら七泊八日じゃ足りないぞ!?」
レアなゲームを一週間遊んで五十万貰う。
最高だ。こんな幸せが合って良いのだろうか。
その後、遊技場内のヤンキーのいないエリアをくまなく周り、やりたいゲームに目星をつけると最初に見つけたゾンビハザードの筐体の所へと戻った。
他にも色々気になるゲームはあったが、やはりコレしかない。このゲームは今この機会を逃したら二度と遊べないかもしれない。
そもそもコンシューマー版を出せば売れるのだから、メーカーは作るべきなのだ。何のためにモーションセンサー付きのゲームが流行っていると思っているのだろうか。アーケード版シューティングゲームを家でも遊べるようにするためといっても過言ではない。
いや、それは過言か。
などとくだらない戯言はさておき、ゾンビハザードとの向き合い方を考えなければ。
「動画見てたのすら何年も前だからな。まずは基本ルートでクリアして、その後アナザールート、最後にハイスコアを狙う。うん。そうしよう。完璧だ」
僕は銃を手に取り、画面に向かって銃口を向けて引き金を引いた。
時代を感じさせるポリゴン、少し安っぽさすら感じる効果音。
良い。スゴく良い。
コレだ。コレなのだ。今のゲームに足りないモノは。
「クソッッッ」
耐久力が無駄にある、触手の生えたモンスターが次々と現れる。
バンバンッ! カチカチカチ
弾が発射されず、敵がドンドン近付いてきた。
しまった。弾切れだ!?
この僕が弾薬管理をミスった!?
そんなはずはない!!
弾が残っているのは攻撃力が最弱のハンドガンだけ。
敵が硬いからショットガンを装備していたというのに、ハンドガンだけでどうにかなるのだろうか。
とにもかくにも撃つしかない。
バンバンッ! バンバンッ!
「あぁッ!!」
デデーン
画面が真っ赤に染まり、デカデカとGAME OVERと表示された。
「あぁクソッッッ!! 弾が少ないんだよッッッ!! やっぱこの頃のコミコンは駄目だな。バランス調整というモノがまるでなってない。やはり全てにおいて完璧と言わざるを得ないウォーカーパラダイス4に勝るものは無いのか!?」
そう叫んでみたが、内心嬉しさもある。
レトロゲー、ましてや集金箱でもあるアーケードゲームにおいてバランス調整などどうでも良い。初心者お断りのクソ難易度で集金するのがアーケードガンシューティングの宿命だ。ゾンビハザードもその一つに過ぎない。
そして何より、ガンシューオタクは金を注ぎ込んで脳汁を垂らしながらラスボスを倒すまでがワンセットなのだ。
財布を出す必要が無いのでそのままコンティニューを選択しようと銃口を画面に向けると、視線を感じた。
ヤンキーかと思った僕は動揺を隠すように振る舞いながら振り返った。
「あぁ、ごめん。邪魔するつもりはなかったんだ。ただ楽しそうにゲームやってたから見てただけ」
そこにはバンドマンが一人で立っていた。
いつから見ていた? ガンシューの最中に後ろに注意など払っていない。今さっき来たのかずっと見ていたのかすら分からない。
「このゲームやりたいの?」
譲る気など無い。
譲る気は無いが、かといって占領したままというのはオタクとして許せない。マナーを守れない奴はオタクじゃない。
僕の中の良心が絞り出したその言葉にバンドマンは「アハハ」と笑った。
「いやいや。続けて遊んでもらって良いよ。僕は皆が何処で何してるのかなぁと思ってウロウロしてるだけ」
「他の人の自由時間の過ごし方を監視するのは、趣味が悪い」
強い表現になった気がしたので、慌てて「と思うけど」と付け足した。
「まぁ、そうだよね。月野さんと水嶋さんが何処にいるか知ってる? まだ見かけてないんだよね」
あくまで監視活動はやめないつもりらしい。まぁゲームの邪魔をしないのならどうでも良い。
「ヤン、じゃなくて、水嶋とかいう人は奥の方。多分パチスロやってる。月野とか言う人は上の階に行った」
「そうなんだ。ありがとう。じゃあ僕はコレで」
そう言うとバンドマンは遊技場の奥の方へと歩いて行った。
「バンドマンのせいで冷めちゃったな」
そう思いながら画面を見ると、そこにはタイトル画面が映し出されており、コンティニューが出来なくなっていた。
「ダァアアッッッ!! クソッッッ!! 邪魔するつもりは無いとか言っておきながらッッッ!!」
僕はトリガーを乱暴にガチャガチャと何度も引いて、最初のステージから再開した。
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