第33話 決着

 昼休みの屋上には何人か人が居たが、誰も居ない隅の方に佐枝は居た。

 俺が近づくと佐枝は笑顔を見せた。


「良和、やっぱり来てくれたのね」


「ああ。何の話だ? もう決着を付けよう」


「そうね。決着を付けましょう。まず、私から謝るわ。ごめんなさい」


 佐枝が頭を下げる。


「何の謝罪だ? もうごめんなさいは何度も言われたけど」


「今度はこれまでとは違うわ。今までの態度についてよ。あなたを振ったことについて」


「だから、それはもう何度もごめんなさいを聞かされたよ」


「そうじゃなくて。あなたの告白を受け入れなかったことが間違いだったことについてよ」


 間違い? どういうことだ。


「私はやっぱりあなたと仲良くなりたい」


「でも、付き合いたくは無いんだろ?」


「ううん。付き合ってもいいかなって思ってる」


 一瞬、何を言っているのか分からなかった。


「えーと、俺と恋人になってもいいってことか?」


「そうよ」


 俺は混乱した。


「あのなあ。まず第一に俺には既に恋人がいる。お前も知っているだろ」


「そんなの関係ない」


「なんでだよ」


「だって、私と良和の問題だもん」


「何を言ってるんだ……」


 本当に訳が分からない。


「それに、お前はそういう好きじゃ無いって言っただろ」


「それもごめんなさい。私が間違いだった。私は良和のことが好き」


「え? 今更……」


「うん。認めるわ。だから、私と付き合いましょう。松岡さんとは別れて」


「お前なあ……」


 身勝手なことを言っていると佐枝は分かっているのだろうか。


「俺はお前に振られて、忘れようと努力してきたんだよ」


「知ってる。でも、もう忘れなくて大丈夫よ」


「もう、無理だよ。遅いんだよ!」


 思わず大声が出てしまう。


「遅くないよ。だって、私が好きって言ってるんだから」


「はぁ。話が通じない」


「なんでよ。良和も私が好きなんでしょ?」


「……佐枝、お前のことが好きだった。でも、今は違う」


「え?」


「俺には京子がいる。お前より京子が大事だ」


「そんな意地張らなくてもいいでしょ。もうわかったから。これまでのことは謝るから」


「意地なんて張ってない。本心から言ってるんだよ」


「……」


 佐枝は黙った。


「俺は京子が好きだ。だから、佐枝、お前とは付き合えない」


 俺ははっきり言った。


 ――佐枝の目から涙がひとしずく落ちた。


「嘘だよね。冗談だよね……。意地悪しないでよ。謝るから」


「本当だ。ごめん」


 佐枝は両手で顔を押さえて泣き始めた。


 俺は見ていられなくなり、佐枝を残して出口に向かった。

 すれ違うように相澤さんが屋上に入ってきた。


「堺君、佐枝と話したの?」


「ああ。断ったよ」


「そう」


 それだけ言うと相澤さんは佐枝の方に向かっていった。あとは相澤さんに任せよう。




 階段を降りると京子が居た。


「大丈夫ですか?」


「ああ」


 そう言いながら俺は京子を誰からも見えない柱の陰に連れて行く。


「良和君?」


「京子、俺にはお前だけだ」


 俺は京子を抱きしめた。


「はい、私も良和君だけです」


 京子も強く抱き返してくれた。


「愛してる」


「私もです」


 俺たちはしばらくそのまま抱き合っていた。



――――――

 次回、エピローグ(高橋佐枝 side) で完結となります。


 新作ラブコメを公開予定です。

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