第31話 距離感

 翌日、京子と一緒に学校に行く。最近ではいつもの光景だが、何かこれまでと違う。俺は路面電車のつり革に掴まっているが、京子は俺の腕に掴まっていた。


「えーと……」


「あの、迷惑ですか?」


「いや、嬉しい……けど」


 周りの目は気になる。


「じゃあ、このままでいますね」


 途中で電車の中の人が少なくなり、座ることが出来た。2人で横に座るのはいつものことだが、ここでも京子との距離感がいつもより近い気がする。


「今日のお弁当、楽しみにしてくださいね」


「うん、ありがとう」


 小声でも聞こえる距離だ。


 電車を降りて2人で並んで学校に行くが、やっぱり距離感がいつもより近かった。そのまま教室の前まで行く。が、京子は自分の教室の前でも離れようとしない。


「あれ? 入らないの?」


「良和君の教室の前まで行きます」


「え?」


「だってできるだけ長い時間一緒に居たいから。ダメですか?」


「ダメなわけないよ」


「うふふ。ありがとうございます」


 結局、教室の前まで京子はぴったりとくっついてきた。


「じゃあ、またお昼休みに」


 扉の前で手を振って京子と別れた。教室に入ると佐藤が俺をじっと見ている。


「なんだよ」


「お前ら、何かあったな」


「……まあな」


「どうやら、いろいろ先を越されたみたいだな」


「そうかもな」


「うらやましいやつ! 後でどうやったかいろいろ教えてくれ」


「そんなの教えられるか! 自分で頑張れ」


「そんなあ」


 俺と佐藤が騒いでいたら、ふと視線に気がつく。その方向を見ると佐枝が俺をにらんでいた。

 それに佐藤も気がつき、静かになった。


 そして、佐枝がこちらに近づいてきた。


「良和、話があるの。昼休み、屋上に来て」


「昼休み? 俺はここで4人で食べてるから」


「食べ終わったら来て」


「いや、そういうわけには――」


「待ってる」


 そう言って佐枝は去って行った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る