第30話 二回目の家

「お邪魔します」


「どうぞ。くつろいでくださいね」


 京子の家に来るのは二回目だ。まだ二回目なのにもう馴染んだ感じで俺はリビングに座った。

 慣れた手つきでアニメのサブスクを見る。


「あ、『進め吹奏楽部』見てるんだ」


 思わず履歴を見てしまった。


「はい。今度三期が始まるんで、見返してました」


「そっか。俺一期しか見てないんだよね」


「じゃあ、二期見ます? 見てていいですよ」


「そう? じゃあ見てるね」


 俺は『進め吹奏楽部』二期の初回から見始めた。


 京子は料理を始めている。『進め吹奏楽部』の主題歌を鼻歌で歌っているのが聞こえてきた。なんかこういうのいいな。


 俺は幸せな気持ちになりながら、アニメを見進める。そのうちに料理が出来ていた。


「はい、どうぞ」


「うわ、美味そう!」


「えへへ」


「いただきます!」


 早速、ハンバーグを食べてみるが、これは予想以上だ。


「美味い! 味も濃くて俺好み」


「そうですか? よかった」


 食べながらアニメを見て、感想を話し合う。これも至福の時間だ。


 食べ終わってからも2人でコーヒーを飲みながら『進め吹奏楽部』を見つづけた。


「……この2人って付き合わないの?」


 俺はアニメを見ながら疑問に浮かんだことを聞いてみた。このアニメに出てくる幼なじみ2人はお互いを信頼し合い、好き同士なのになかなか付き合わない。


「あ、ネタバレしちゃってもいいんですか?」


「付き合うかどうかだけ教えてよ」


「この後、付き合いますよ」


「やっぱりそうか」


「でも……。あ、ここから先は内緒で」


「えー、バッドエンドなの?」


「いえ、そういうことではないかと」


「だったらいいか。幸せになって欲しいもんね、この2人」


「ですね。そう思います」


 やはり京子と感想を言い合うのは楽しいな。そんなことを思っていたときだった。


「……私も幸せになれたらいいなあ」


「え?」


 思わず京子を見た。テレビからはアニメのエンディング曲が流れている。


「……うっ、ぅ……」


 京子は泣き出していた。


「ど、どうしたの? 急に」


「だって、良和君と付き合ってるけどお試しだし。結局は良和君は……」


 そうだ。俺と京子は恋人同士といっても今はお試しに過ぎない。


「京子……」


「ごめんなさい。覚悟はできてるって言ったのに……」


 京子のその姿に俺は覚悟を決めた。


「いや、大丈夫だよ。大丈夫だから」


「大丈夫って何ですか」


「……俺、もう佐枝のことあまり考えなくなってるよ」


 そうだ。気がついたら俺の中で佐枝の存在は小さくなっていた。


「ほんとですか?」


「ほんとだよ。京子といると楽しいからさ」


 俺は京子のおかげで佐枝を忘れていったのだろう。


「信じられませんね」


「えー! ほんとなのに」


「証明してください」


「どうやって?」


 京子は俺に近づいてきた。そして、俺の顔を見上げ目を閉じた。


 え、いいんだよな……。俺は少しためらったが、気持ちは京子と同じだ。2人の唇が触れた。


「うん、信じました」


 京子は笑顔で言った。


「いいよ、信じてもらって。だから、今日でお試し期間は終わりにしよう。これからは本当の恋人だ」


「はい、嬉しいです」


 俺たちはもう次の回が始まっているアニメをそのまま見始めた。そして、合間に何度もキスをした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る