第29話 買い物
その日も俺は京子と一緒に帰っていた。お試しの恋人のまま数日が過ぎたことで、俺は京子が恋人であることを当たり前のように受け入れだしていた。
「あの……今日も親の帰りが遅いんです」
「そうなんだ」
「だから、その……また家に来ませんか?」
前もこのシチュエーションあったな、と思うが、今は立場が違う。俺と京子はお試しとはいえ恋人同士だ。恋人として家に行くとなると、どうしてもいろいろ意識してしまう。
「いいの?」
「はい。おうちデート、みたいな。一緒にアニメ見たいです」
「そ、そうだね。分かった。お邪魔するよ」
意識しすぎていたかな。
恋人になったといっても、あくまでお試し。家に行ってやることは一緒にアニメを見ることで、以前と何も変わらない。
「あ、買い物していっていいですか? また夕食作ります。何食べたいですか?」
「え? いいの?」
「もちろん。バスセンターのスーパーとかどうですか?」
「そうだね、そこがちょうどいいか」
俺たちは路面電車を途中で降りてバスセンターに向かった。
地下に降りるとそこにはファーストフード店などがあり、フードコートには高校生も多い。だが、俺たちはそこには寄らず、奥のスーパーに進む。
「さすがにここには高校生居ませんね」
「そうだね。スーパーで男女で買い物する高校生はそんなに居ないだろうな」
「ふふ。私たち、特別ですね」
「特別、なのかな。でも、俺が幸せ者なのは確かだな」
「え?」
「だって、好きな人の手料理を食べられる高校生なんだから」
「好きな人……でいいんですよね」
京子はお試し状態と言うことを気に掛けているようだ。
「俺は佐枝を忘れるためだけに付き合ってるんじゃないよ。京子が好きなのは確かだから」
「あ、ありがとうございます」
京子は真っ赤になっていた。
「えっと、今日は何が食べたいですか?」
京子はごまかすように言った。
「……ハンバーグとか、どうかな」
「はい! 得意ですよ」
京子は笑顔で肉のコーナーに向かった。
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