第27話 呼び方

 残された俺たちはあっけにとられていたが、松岡さんが俺に声を掛けてきた。


「大丈夫ですか?」


「ああ。心配ない。何なんだろうな、佐枝のやつ……」


「うーん、複雑な女心ってやつかな」


 中井さんが茶化す感じで言う。佐藤は無言のままだ。


「堺君には私が居ますよ」


 松岡さんが俺の頭をなでてきた。


「ああ、そうだよな、分かってる。ありがとう。松岡さん。いや、京子」


「「!?」」


 松岡さんが驚いてなでる手を止めた。中井さんも佐藤も驚いている。


「あ、いやー、佐枝のことを佐枝って呼んでおいて、自分の彼女のことは松岡さんって変かなあ、って思って」


「ふふ、そうですね。堺君。じゃなかった、良和君」


「!?」


 今度は俺がドキっとさせられてしまう。名前で呼ばれるのは佐枝以外では初めてだ。


「ちょ、ちょっと恥ずかしいな」


「そうですか? 私は大丈夫ですよ」


「そうか。ちょっと練習させてくれ、京子」


「ふふ、分かりました。良和君」


「きょ、京子」


 2人でただ呼び合って恥ずかしがってしまう。


「ちょっと! イチャつかないで。私たちも居るんだから」


「あ!?」


 俺たちは思わず中井さんと佐藤を見る。


「全く、お似合いのカップルだな」


 佐藤の言葉に思わず恥ずかしくなるが、よく考えたらこの2人だって今までさんざん見せつけてくれていた。


「いや、お前たちも名前で呼んでるだろ。やり返しただけだ」


「何それ! 私たちはただの幼なじみだし。ねえ?」


 中井さんが佐藤を見る。佐藤は困っているようだった。


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