第13話 手紙

 朝、俺が席に着くと机の中に手紙が入っているのに気がつく。高橋佐枝からだ。俺は誰からも見られないようにその手紙を開けた。


「放課後、屋上に来て」


 俺は佐枝ともう話したくない。この手紙を無視することもできるだろう。だが、いつまでもそれが可能だろうか。ずっと逃げることはできない。俺は覚悟を決め、行くことにした。


 放課後になり、屋上に行くと佐枝が居た。


「来てくれたのね」


「ああ。だが、こういうのはこれで最後にしてくれ」


「とにかく話を聞いて判断して欲しいわ。……私、あのとき、嘘をついたの」


「嘘?」


「そう。私に彼氏なんて居ないわ。あのときも今も」


「え?」


 俺は呆然とした。


「なんで、そんな嘘を?」


「み、見栄よ。彼氏が居ないって決めつけられるのが嫌だったの」


「見栄って……。それで俺がどれだけ苦しんだと……」


 俺は絞り出すように言った。


「だって、知らなかったんだもん。あなたが……私のことを……その、好き……ってこと」


 そう言った佐枝は涙ぐんでいるように見えた。


「……話はわかったよ。でも、俺の告白はどうなるんだ?」


「え?」


佐枝はこちらを真顔で見た。


「だから……彼氏は居ないんだろ? 俺はお前を好きだと言った。付き合ってくれるのか?」


「そ、それは……」


佐枝は言葉を濁したまま、黙ってしまった。やっぱり、そうか。


「じゃあ、なんでこんな話したんだ……」


俺はいらだって言った。


「だって……私は元に戻りたいのよ。元の関係に。恋人になりたいとは正直、思っていない。友達のままで前のように馬鹿話したいのよ」


佐枝は泣きながら言った。


だが、俺が失恋したことには違いないだろう。


「無理だと思う……。気持ちが元に戻らない」


「で、でも……私たち、友達には戻れるよね。話しかけてもいいよね?」


俺は佐枝と友達に戻れるのだろうか。正直無理だと思う。だが、佐枝の悲しい顔を見ていると、罪悪感を感じずには居られなかった。


「わかった。だけど、俺に前のような愛想を期待しないでくれよ」


「う、うん。私、またああなれるように頑張るから」


「……俺はもう帰るから」


「うん、また明日ね」


俺は佐枝と友達として話をしてもいいということにしてしまった。


自分に嘘をついているかもしれない。そして、佐枝と恋人になれるかもしれないという可能性にも期待してしまっている。そういう自分が嫌だった。

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