第12話 チャンス(高橋佐枝 side)
そんな中、チャンスが訪れた。朝、登校していると良和と一緒になったのだ。
「おはよう、良和」
できるだけ自然に声を掛けた。
「ああ、おはよう」
良和も自然だ。これはいけるかもしれない。
だが、路面電車の中では人も多く、なかなか話しかけられなかった。路面電車を降りて校門へ向かう。今しかない。私は勇気を出して話しかけた。
「最近、他のクラスの子と仲良くなってるね」
以前と同じような感じで、自然に話しかける。
「ああ、まあね。佐藤の知り合いで」
「そうなんだ。隣のクラス?」
「ああ。中井さんってのが佐藤の幼なじみでね。もう一人がその友達の松岡さん」
「じゃあ、松岡さんって子と仲良くなったんだね」
「うーん、仲良くなったのかな。ちょっとアニメの話するぐらいだよ」
2人はどんどん仲良くなっていってたのは分かっていた。もしかしたら付き合っているのかもしれないとも思っていたが、そうではないようだ。そう思うと、あのとき言ったことをふと思い出した。
「そっか。ごめんね、あのとき彼女できないとか言って」
「え?」
急に彼の態度が変わった。しまった、あのときのことを言うべきじゃなかった。
「いや、こっちこそごめん。変なこと言って」
「変なことって?」
「だから……好きって言ったこと。ごめん」
「なんで謝るの?」
「だって、彼氏居るって分かったのにあんなこと言って、迷惑掛けた」
ほんとは彼氏なんか居ないのに。今こそ言うべき時だ。
「それなんだけど……」
「ほんと、ごめん」
良和は話を聞かず走り出して行ってしまった。
◇◇◇
やってしまった。もう少しで元のように会話できるようになれそうだったのに、私はあのときのことをつい話してしまった。あのときのことは良和にはトラウマになっているに違いない。でも、あのときのことを乗り越えない限り、私たちは元に戻れない。
あのとき、私が良和に「彼氏が居る」って嘘をついたのが何よりいけなかった。とにかく、その誤解を解かないといけない。なんとかして話す必要があった。でも、こんな話、教室では出来ない。帰り道、待ち伏せするしか無かった。
私は校門で良和を待った。すると、そこに良和が現れたが、横には松岡さんも一緒だ。でも、気にしてはいられない。私は声を掛けた。
「良和」
すると、良和はちょっとうろたえていた。
「や、やあ、高橋さん」
松岡さんが良和の前に出て私との間を阻もうとする。
「あなたが高橋さんですか?」
昼休みには聴いたことが無い鋭い声だ。松岡さん、こういう人だったっけ。
「そうだけど。あなたは隣の組の松岡さんね」
「私のこと知ってるんですか?」
「いつも、教室に来てるでしょ。名前は良和に聞いたから」
「そうですか。それで、堺君に何の用ですか?」
「ちょっと、話をしようと思って……」
「堺君は話はしたくないようですよ。ね?」
そんなことない、と思い良和を見る。
「い、いやあ。その、なんて言うか…」
良和は態度をはっきりさせなかった。それに私はショックを受ける。
「そういうことですので。じゃあ、私たち急いでますから」
松岡さんが良和の腕を取り、行ってしまう。
「ちょ、ちょっと!」
私がそう言っても2人は立ち止まらなかった。
それからというもの、私は良和と2人で話せる機会をうかがった。でも、休み時間には良和は私を避けるように教室から出かけてしまう。朝と昼休みと放課後は松岡さんの完全ガードだ。私は話しかける手段を失ってしまった。
仕方ない。私は手紙を良和の机に入れた。
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