第11話 高校(高橋佐枝 side)

 その夜、これから良和にどう接したらいいんだろうとずっと考えていたが、結論は出なかった。

 そして、翌日。良和は登校してこなかった。ショックだったんだろうか。そう思っていたところに感染症にかかったという話を聞いた。そうなると、もうこの学校では会えないんだろうか。


 結局、卒業式になっても彼は登校してこなかった。それでも、私は心配はしていなかった。同じ高校に進学するのが分かっていたからだ。高校になればまた会える。そして、また、以前のように馬鹿話で盛り上がれる。


 そう思って登校すると、幸運なことに良和と同じくクラスであることが分かった。


 彼が教室に来ると、私は早速話しかけようとした。


「良和、えっと……」


「ああ、高橋さん。おはよう」


 良和は、私を佐枝と呼んでくれなかった。他の生徒を気にしているんだろうか。


「あ、おはよう。もう大丈夫なの?」


「ああ。何も心配いらないから」


 その言い方には以前の時には感じなかった壁を感じた。


「そう」


 私がそう言うと、良和は私に背を向け、後ろの生徒との会話に戻った。


 やっぱり、以前と同じようには行かないか。私はとぼとぼと自分の席に戻った。


◇◇◇


 高校生活にも少しずつ慣れてきたが、私は相変わらず猫をかぶったままだ。どうしても、自分を出せない。中学の時には私をからかってきてくれる良和相手に自分を出すことが出来た。でも、あれ以来、良和とは全然話せていない。やはり避けられているのは間違いないようだ。一緒に馬鹿話できる相手が居ないとこうも寂しいのか、と私は思い知った。


 彼が女子と話すのは私では無く、佐藤君の友達だ。他のクラスなのになぜかうちのクラスに来て一緒にお昼を食べている。そのうちの1人は佐藤君と仲がいい。たぶん、彼女だろう。もう一人は地味な感じの子だが、次第に良和とよく話すようになっていくのが傍目にも分かった。本当は私があの場所に居たはずなのに。そう思っても、そこに入り込む勇気は無かった。


 そんなある日、いつもお昼を一緒に食べている相澤絵里がぽつんと言った。


「堺君、隣のクラスの子と仲良くなってるね」


「そうみたいね」


 何事も無かったように言った。


「佐枝さあ、堺君と何かあった?」


「え?」


「だって、中学の時はよく話してたし仲良かったでしょ。付き合ってるって噂あったよ」


「違うよ、そんな関係じゃ無いし」


 絵里は同じ中学で同じクラスだった。あの頃の私たちをよく知っている。


「高校では全然話してないよね」


「……うん、ちょっとね」


「仲直りするなら、早いほうがいいんじゃないかな。堺君、取られちゃうよ」


 絵里がからかうように言う。


「別にそういうのじゃないから」


「でも、うちのクラスって女子と話す男子少ないから、堺君は貴重な存在として注目されてるよ」


「そうなの?」


「うん。佐藤君は明らかにあの子と仲いいからね。となると、フリーなのは堺君、と」


 そういう話をしている間にもうちのクラスの女子2人が堺君に話しかけに行っていた。


「ほらね」


「へー。人気なんだ」


「なんか、大人っぽいし、よく見ると格好いいもんね。私も行ってこようかな」


「待ってよ。良和は……」


 私のことが好きなんだから。でも、それは言える訳が無い。


「良和は、何? 気になるなら一緒に行こうよ」


 私は黙ってしまった。みんなの前であのときのことは話せない。結局そのまま行動は起こせなかった。


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