第10話 あのとき(高橋佐枝 side)

 私、高橋佐枝は後悔していた。あの日、なぜあんなことを言ってしまったのか。

 中学も終わりに近づいたあの日。いつも、気の置けない会話をしていた良和。すごく話しやすくて、一緒に居て楽な相手だ。でも、私には恋愛感情は無かった。あくまで異性の友達だ。


「あー、高校では彼女作りたいなあ」


「まあ、良和では無理だね」


 ついつい彼をからかってしまう。私が素を出せる数少ない友人だ。


「何でだよ。俺だって高校では彼女の一人や二人作れるから」


「なんで二人作ってんのよ」


「そういう佐枝だって彼氏居ないでしょ?」


 そう言われて、自分のプライドが傷ついた。私だって、かわいい方だと思う。告白も何人かからされている。私がモテない女だと良和に思われるのは嫌だった。


「馬鹿にして。い、居るから」


 彼氏なんてもちろん居ない。でも、つい口から出た見栄だった。


「え!?」


 きっと「そんなわけないだろ」と冗談で返してくれるって思ったのに。


「そうだったんだ。知らなかった」


 なんで、真剣に受け止めてるんだろう。私は自分がモテない女だと思われるのは嫌だっただけなのに。


「……そうだよ。私モテるんだから」


 つい、ちゃかして言ってしまう。


「ご、ごめん……。実はさ、俺、佐枝のことが好きだったんだ」


「え?」


 思わぬ告白に耳を疑った。知らなかった。私のことをそんな風に思ってたんだ。


「あはは、言っちゃった。彼氏が居るのにこんなこと言ってごめん」


 私にとって良和は異性だけど気を許せる友達という存在。恋愛感情は無かった。だから、彼氏が居るってことを訂正しないほうが都合がいいと思ってしまった。


「私こそ、なんかごめん……。だから、良和とはつきあえない」


 いたたまれない空気。彼は走り去ってしまった。

 私は追いかけることはできなかった。


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