第8話 遭遇

 次の日の朝、俺はいつものように路面電車で登校していた。すると、そこに高橋佐枝が乗ってきた。


「おはよう、良和」


「ああ、おはよう」


 高校に入ってから佐枝とは挨拶以外の会話はほぼしていなかった。

 そのまま、何も話すこと無く学校前の停留所に到着した。路面電車を降りて校門に向かおうとするところで佐枝が話しかけてきた。


「最近、他のクラスの子と仲良くなってるね」


 挨拶以外のことを佐枝と話すのは久しぶりだ。


「ああ、まあね。佐藤の知り合いで」


「そうなんだ。隣のクラス?」


「ああ。中井さんってのが佐藤の幼なじみでね。もう一人がその友達の松岡さん」


「じゃあ、松岡さんって子と仲良くなったんだね」


「うーん、仲良くなったのかな。ちょっとアニメの話するぐらいだよ」


「そっか。ごめんね、あのとき彼女できないとか言って」


「え?」


 急にあのときのことを佐枝が言ってきた。俺にはまだ鮮明に記憶されているあの日の出来事。今まであのときのことはどちらも触れてこなかった。佐枝も気にしていたのだろうか。


「いや、こっちこそごめん。変なこと言って」


「変なことって?」


「だから……好きって言ったこと。ごめん」


「なんで謝るの?」


「だって、彼氏居るって分かったのにあんなこと言って、迷惑掛けた」


「それなんだけど……」


 俺はその話を聞くことが耐えられなかった。


「ほんと、ごめん」


 俺はそう言って、走り出してしまう。

 佐枝とは話すとどうしてもつらい思いがよみがえってきてしまう。


◇◇◇


 教室での俺は口数が少なくなってしまい、また佐藤に心配されていた。

 あの日のことがトラウマとしてよみがえってしまったようだ。


 いつもは盛り上がる昼休みも、俺は3人と全然話せなかった。


「何かありました?」


 松岡さんが小声で聞いてくれる。


「心配かけてごめん。でも、大丈夫だから」


 中井も小声で佐藤に聞いている。


「堺君、どうしたの?」


「さあな。まあ、でも高橋さん絡みだろう」


「高橋さん?」


 小声で話しているつもりだろうが、俺にも丸聞こえだ。


「おい、聞こえてるぞ」


「すまんすまん。俺見ちゃってなあ。朝」


 そうか。佐枝と話しているところを佐藤に見られていたらしい。


「高橋さんとお前、何かあったのか?」


「別に何かあったわけじゃないよ……。昔の話だ」


「中学か。同じ中学だったよな」


「ああ。要は俺が振られた相手ってだけだよ。一緒の高校に入るために努力したんだけどな。馬鹿みたいだろ」


「そうだったのか。そりゃ、つらかったな」


 佐藤は同情顔だ。松岡さんは口に手を当てて驚いたようだった。


「今日の朝、久しぶりに話したんで、ちょっと思い出しただけだよ」


 そういう話をすると、突然、松岡さんが俺の頭をなでだした。


「!?」


「つらかったですね……」


俺はしばらくなでられるままになっていた。

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