第5話 Sideヴァイオレット2

「貴方は興味のあることになると早口になって私を置いていくのね。

 寂しいわ。」

私はため息をつきながらそう呟く


カナタは少し得意そうな顔を浮かべている。あの顔を見るに、

私はいつも通りを装っているつもりだったが、カナタに対する後ろめたさを隠しきれておらず

少しでも場の空気を換えようとするために打った茶番なのだろう。

顔に出ていて本当に分かりやすい。


「で、さっきの茶番に交じって興味深いことを言ってましたが」

カナタは顔を歪めて一瞬呻くが、私は無視して続ける


「魔族が魔力を感知するとはどういうことでしょうか?」

「確か魔族が聖域の魔力を感知して一直線で向かってくる話だったかな…

 魔族が動き出してすぐ聖域防衛戦みたい事をやってました。

 その後、シナリオでは聖域に入られて大きな木が焼かれてなくなります。」

「なるほど。」

シナリオ通りに進めば大樹を処分されるのね。

大樹がなくなれば次代の聖女が力を十全に発揮できなくなる。

これは厄介なことになるわ。




「とりあえず未来の話は後回しにして

 今の話を始めましょう。カナタ、貴方はもう知っていると思いますが

 3日後に

 学園生活が始まります。本来のラインは護衛として共に入学する予定でしたが…」

「行かせてください!私はヴァイオレットの闇堕ちを回避したい!」


「そうですか。嫌でも連れて行くつもりでしたが、貴方がその気で安心したわ。

 ですが学園には貴方ではなくラインに来てもらわなければならない、と私は考えています。」

カナタはよくわかっていなそうな不思議な顔をしていますが、カナタではダメだと私は考えている。


本来のラインは命令に忠実なだけの動く銅像、

今のカナタは表情豊かでおしゃべりな性格であり、ラインと違いすぎる。

その結果、良くも悪くも私たちの知る未来から大きくかけ離れる事に繋がると考えています。

そしてそれは未来の情報アドバンテージを生かせなくなることになる。


「どういうことか分かりませんが…学園ではラインだった時の感じで行けばいいんですね?」

「ええ、そうしてもらえるかしら?

 ただ、今の貴方は前世の記憶が強く出ているようで感情がすぐに表に出ている、

 学園が始まるまでにある程度感情を抑えられるよう練習させるのでそのつもりでいてください。」

「そ、そうなんですか。分かりました。ですが、一つ質問があるのですが…」

カナタは心配そうな顔をしてこちらに目を向ける。


「仮に私がラインに戻ったとして、それはシナリオ通りに進んでしまうのでは?」

「その問題は解決済みです、今の私に闇堕ちは起こらない。

 私たちの学園生活は物語の流れに沿って進み、結果だけを良い方向に変えるのつもりです。」

「闇堕ちが発生しない方法があるんですか!」


「婚約破棄される可能性が高いと事前に分かっているのですから心が乱されることはありません。

 聞き流して終わりでしょう、

 それに


 私には、貴方がいるじゃない?」


もちろん婚約破棄されたからといって、カナタと婚約するつもりはありません。

それでもこうして口に出して宣言することに少し恥じらいを感じますが、顔が熱くなるほどではありません。

しかしカナタは顔を背けながら照れていて赤くなっている。

この程度で感情を表に出すようでは心配ですね。3日で間に合うかしら?


「では今日から3日間、私のメイドと執事に指導を受けて頂きます。

 私はそれまでに未来に起こる出来事の対策と、学園

の準備をしますのでしばらく会えませんが

 頑張りなさい、カナタ。」

そう言い残し私は部屋を出た。



直属のメイドが部屋の外で待機している。会話が外に漏れないように外から消音魔法をかけさせていた。

「悪いわね。誰にも聞かれたくない話だったの。」

「いえいえ~♪お嬢様もそういうお年頃になりましたからね~★

 お嬢様と執事の禁断の遊び❤なんて、だれにも聞かれたくないですよね~♪」


「理解してくれて助かるわ。

 それで、今からメイドと執事を集めてラインに感情をある程度コントロールできるように指導を行いなさい。

 今のラインでは護衛の務めを果たせません、3日以内で形にしなさい。」

「は、はい!かしこまりました!ただちに集めて指導を行います!」




今日新たに分かった事は大樹の焼失

聖女は杖を持つことで強力な光魔法を自在にコントロールできるようになると言われる。

大樹の枝から作られる聖女の杖が、次代にはなくなるのはよくないわ。


事前に兵を聖域に集めておけば大樹は守れるかもしれないですが

その選択は人を守ることができない、難しいわね。

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