第4話 悪役令嬢の後ろめたさ

朝食を終えて少し経った後、ヴァイオレットが部屋を訪ねに来た

「またせたわねライン。いえ、カナタ」

「…ヴァイオレット!」

「あら?初日にしては随分あっさりと呼び捨てにできるのね

 前世でそう呼んでたからかしら?」

「そ…そうですね。はい。」


部屋に戻ってきたヴァイオレットはベッドの近くの椅子に座ってこちらの様子を見ている。

その顔にはいつもの凛とした顔をしておらず、どこか気まずそうな雰囲気を醸し出している。


「そういえば、私のチートとはいったい…」

「そうでしたね。ですがその前にまず、貴方に謝罪をしたい。私は貴方を信用しておりませんでした。

 貴方の今日の会話は全て偽証感知の天秤で確認しておりました。

 メイドにも貴方に探りを入れさせてましたが、嘘はありませんでした。

 どうか、許していただきたい。」


ヴァイオレットは私の前で頭を下げて謝罪する

その姿には悪役令嬢たる姿を感じさせない。まるで一人の少女のようだった。


「あ、頭を上げてください!

 確かに、私のような存在を疑うのは当然のことです!

 私がヴァイオレットの立場でも同じことをしました!

 お願いします。どうか頭をあげてください…


 私は…貴方の元気のない姿は…あまり見たくない…いつもの凛とした姿がみたい…。」


「…ありがとうございます。」


その言葉と共にヴァイオレットは少しずつ頭を上げ、私の顔を見る

そして一度目を閉じて深呼吸し、いつもの顔に近づいたが、まだ少し影が見える…


「それで、チートのことでしたね。」

「はい。聞かせてください。」

「貴方のチート能力は『破壊』

 物質、気体、幽体ありとあらゆるものをただ破壊する能力です。

 ただしこの能力には回数制限があり、補充がすることができません。」

「破壊…強力な能力ですが、使い勝手が悪そうなチートですね」


ただ、破壊するだけのチート、この世界観に合ってない気がする。

本当に転生チート特典なのだろうか。

後半のアラゴー帝国、魔族戦には猛威を奮いそうではあるが…


「一度、試しに打ってみますか?」

ヴァイオレットは左手に抽出したチートの球を出現させ、

右手の人差し指で球の側面を撫でまわすように一口分を掬い、私の口元に近づける


「これを飲み込めば、一回分の破壊を使えるようになります。残りは9回ほどですが、

 どうぞ口に」


差し出されるままに私は顔に少し熱を感じながら口を開けてヴァイオレットの指ごとチートを口にいれる

味は特にしない。強いていえば、これがヴァイオレットの指の…

そう考えているうちにヴァイオレットは私の口から指を引き抜いた。


「使い方は対象に手を向けて、破壊する対象を強く念じながら"破壊"と唱えることです。

 試しに、このコップを破壊してみてください。」


ヴァイオレットは立ち上がり、コップを少し離れた机に置く

しかしその近くには花瓶もある。

「破壊する対象を強く念じてから発動させるため、別の物に当たるという誤射は起こらないので安心して打ってみてください」


私は右の手のひらをコップに向け、強く念じながら口を開く

「…"破壊"!」



チートは発動したようだコップは音もなく塵へと変わっていく。となりの花瓶を一切傷つけることもなく。

「どうでしょうか?」


「一度使ってみた今なら分かる。



 これは使いにくい魔法です。一度発動させると体が硬直して動けなくなるリスクがあり、それに発動させたからってすぐに効果が出るわけでもなく5秒ほど時間がかかるので相手の動きが止まっていないと簡単に避けられる気がします。

 物体を完全に破壊して5秒ほど間をおいてようやく動けるようになるという事はこの技を使ったら事実上15秒は動けなくなるとみていいでしょう。

 いえ、対象がコップだったから15秒で済んでます。人間が対象なら破壊に時間がかかって最低30秒は硬直したままでしょう。1対1なら問題ありませんが

1対多や、多対多の戦闘の方が多いので30秒硬直は使いにくいですね。

 ラインに相手を5秒硬直させる技など存在せず、かといって他のキャラにもそのような技はないのでこの技を当てるのはよっぽどうまくやらないと難しいです。

 実践でいきなりこの技を使っていたら本当に危なかったです。一度試し打ちさせていただき本当にありがとうございました。

 後はこの技が外れた時に生じる隙と射程距離、手を向けた時の効果範囲、発動時に発生しそうなスーパーアーマーなんかも検証してみたいですが回数制限があるためそのためだけに無駄打ちするのはもったいないと思います。エリクサーのようにここぞという時のために温存しておきましょう。


 というわけで技は最強ですが実践で使うのは無理だと思います。

 戦いが始まる前の不意打ちくらいしか使い道がないかと」

「そ、そうですか」





「ですがそれは人間相手には有効であって魔族には通用しないと思います。

 記憶が正しければ魔族は魔力を感知することができる気がするので不意打ちにもならないかもしれません。

 自分の力に自信を持っている脳筋魔族か、バリアを張ってくれたら当たってくれるでしょうが、隙のある技なので腕を前に出したら、その斜線上から

「わかりました!一度待ちなさい!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る