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……………
僕の背後から、そう呼ぶ女性の声がした。僕が振り向くと、窓口の大理石のテーブルに、無数の薬品が入った試験管をポケットに入れた白衣を纏う、やはり目が爛々とし狂気的な笑みを浮かべる女性が座っていた。
「なっ……あ、あなたは……?」
彼女は
「私は『カクヨム作家』の『
「『裏』……?」
彼女は僕のその言葉を聞き、ポケットの試験管を一本手にもって、それを見ながら答えはじめる。彼女の乱雑にまとめられた黒髪が揺れる。
「まあ他称さ。私たちは『カクヨム作家』……。君はTwitter……じゃあなくてXを見ていないのかなァ? 『カクヨム作家』というのは1にも2にも暴力でその『作家力』を示す人種さ。さしずめ小説界の指定暴力団と言ったところだねェ……ククク……」
彼女は少し嘲るような口調でそう説明し、笑う。その説明が終わった瞬間、エントランスホール脇の扉が大きな音を立て、蹴破られ、中からアサルトライフルを構えた何十人もの警備員が『カクヨム作家』たちに向け発砲しながら突撃してきた!
『ダァン! ドガガガガガガッ!』
だが、それと同時に、僕の目の前にいる彼女は手に持っていた試験管を警備員たちの出てくる扉へとひょいと投げた。その試験管は床で割れると、飛び散った薬剤が反応、黒いガスが警備員たちを包むように発生した!
「が、ガスだッ! 科学兵……キッ……!」
バタバタと警備員たちは苦しみを訴える間もなく倒れて行く。カクヨム作家たちはエレベータホールや、その奥の階段に向け、バラバラに駆けてゆく。それはまるで、あの無法ケンイチを追っているかのようだった。
「ヤレヤレ……。単細胞たちは追う事しか考えていないのか? ……追いつくにはアタマを使わなくちゃあね……」
そう言いながら滝川小町はテーブルから降り、入口の方へと歩いてゆく。
「付いてくるかい? どのみち君も上に行かなくてはならないのだろう?」
「え、アッハイ」
僕は言われるままに彼女に付いてエントランスホールの入り口を抜け、外に出る。彼女はビルの壁に近づくと首筋に右手で触れ、何かを押す。すると、彼女の背から金属の鎖のような、触手のような自在に動く腕が三本、現れてビルの壁を掴む。
「ドックオクかよ」と僕が言いかける中、もう一本するりと彼女の袖の中から出てきた腕に捕まれ、そのままビルの壁を彼女と共に上ることになる。
「……あの」
僕は彼女に話しかける。彼女は鉄の副碗をビルの白い壁にどんどん突き刺し、上へ上へと昇りつめて行くのを眺めていたが、こちらを向く。
「何かな?」
「その、『カクヨム作家』が凶暴というか、こう、暴力的なのは分かったんですが、何故、今日この会社を襲撃するのでしょうか……。もっと早くてもいいんじゃないのかなって……」
「ククク……『何故今日なのか』か……。いい質問だ。私たち『カクヨム作家』は常にランキング上位やコンテスト、自主企画で互いに競っているのは知っているだろう?」
「ああ、それは……。ハイ……」
「私達『裏』と呼ばれる輩はランキング上位などを維持するために競合を物理的に潰すことを趣向するのだよ。最も手っ取り早いからねェ」
――競合を物理的に潰しても文章が良くなかったら意味がないんじゃないかな……。
僕は言うまでもない正論を思いついたが黙った。
「フッ……君、今『文章が良くなかったら意味がない』って思っただろう」
「え、えええああ、いや、その」
図星を突かれ慌てふためく。
「ククク……。いや、それが当然の考えだ。だが、創作の世界は不思議なものでね……実は『創作が巧い人間は人殺しも巧い』んだよ。さっき見た輩や、これから再び会う『無法ケンイチ』クンを見ればわかるさ……」
「は、はぁ……でも、それだけでは今日ここを襲撃する理由は……」
それを聞き彼女は上を見る。
「まあ、落ち着きたまえ。まだまだ時間はある。それに今日ここを襲撃する理由は無法ケンイチくんなのだからね」
「彼が……一体……」
「彼はカクヨム作家として驚異的な執筆速度と巧妙な構成で知られていた。だが、PV数やランキングでは中々上位に入らなくてね。それもそうさ、彼は卓越した創作力を持ちながら、争いにはあまり参加しなかった……。だが、ある一つの『創作論』を彼が発表して、彼は変わり、そして私達全員を一度に打倒した……」
「ぜ、全員!?」
「ああ、カクヨムにおける12ジャンルの頂点の猛者たち総勢120人を一度にね。1対120。結果は1の勝利……。そして彼はカクヨムの頂点に立った。だが、彼はそんなもの眼中にはなかった……。そろそろ着くよ。着く前に彼の『創作論』を読むことをお勧めする」
彼女はそう言うとその副碗による登攀を停止し、目の前の壁に向け、何度も副碗を刺し、ビルの壁を破壊し始めた。
(続く)
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