カクヨム作家のダイナミック創作論

臆病虚弱

     ……………


 無法ケンイチはカクヨム作家である!

 

 我々はその事実を以てこの無法ケンイチという物語の主人公を迎えなければならない。何度でも言おう。


 無法ケンイチはカクヨム作家である!


 ひょっとすれば差別的や侮蔑的な言葉と思えるこの事実を、君たちに詳らかに説明するには、先ず、語り手である僕・文山比文ふみやま ひふみと彼の出会いから話す必要がある。


     ―――――


 僕が彼と出会ったのは、僕がWeb小説掲載サイト『カクヨム』のとある賞を受賞し、出版するための打ち合わせの為に訪れた千代田区の『KADOKAWA本社ビル』だった。

 天を突くほどに高く、大理石の神殿のような柱であしらわれ、最上層には創業者・角川源義の巨大な像が象られる、幻の建造物『ソビエト宮殿』の如き『KADOKAWA本社ビル』に、僕は圧倒され、入り口前で既に、緊張から、失禁しかけていた。

 そんな時、僕は後ろから、とある人物がやってくるのを見つける。

 彼は、純白の長ランの前を開け、サラシを巻き、上着と同じく純白のボンタン、ぺったりとした白い革靴を身に着けている。さらに、真っ黒な髪は整髪料で後ろへ撫で付けオールバックをしている、額に真っ赤な鉢巻を巻いて『確・殺』の文字がそこにあしらわれている、実に物々しい風体をしていたのだ。

 

 「あ、あなたは……?」


 僕はその見た目に気圧されるよりも先に、その疑問が口をついて出た。

 彼はその爛々とした、目をぎょろりとこちらに向け、僕に向け口を開く。


 「おれは、無法ケンイチ……作家を志すものだ」


 その言葉に、僕は安心感を覚えた。

 ――彼は僕と同じく作家を志す者……いわば同志だ。話し合うこともできるし、何なら同じ目的地かもしれない。彼も同じくWeb小説やライトノベルを書くのかもしれない。そうだ、ライトノベル作家にはこういった気合の入った格好でメディア露出する人も確かいた筈だ。それに習っているのかもしれない。きっとそうだ。そうに違いない。

 僕はそう一人で納得し、話を続けた。


 「よかった。僕もこのビルに用がある作家志望で……」


 「ほう、作家志望か……いつかはキミとも拳を交えるかもしれんな……」


 彼はそう言って右手をぐっと握り締めて、ニヤリと笑った。ギラリと一瞬光ったその眼光は獲物を見る目だった。その一瞬だけで、僕はすぐに、先程この神殿の如き建物を見て気圧され、恐怖した心を思い出した。

 ――彼は……。殺る気だ……!

 僕が足をすくませ、震えるのを見て、彼は笑う。その眼光はさっきと変わって少し柔和だ。


 「安心しろ……。おれは大物にしか興味ない……。お前が大作家になればその時は死合うつもりだが、今は取って食うつもりはない。それよりも……」


 彼は天高くそびえるビルを見上げ、ぐしゃりと口を開けて笑った。それは今のような親愛や融和の情を映すものでは決してない。むしろ、害と敵意と、そして欲望を満たす際の純然たる喜びを示した……恐るべき破顔であった。


 「クククク……。な……。とんでもねえ『創作者』が……」


 彼はそう言って、そのままビルの中へと入っていく。僕はそれを追う様に、共に無数の大理石の柱を進み、荘厳なるエントランスホールへと入っていった。

 エントランスホールは中央に窓口係があり、その奥にはエレベーターホールへつながっている。ホールの天井は10メートルはあろうかという長大なドームとなっていて、精緻な天井画が描かれている。いつか見たバチカンの教会のような、権威と荘厳さの象徴を示しているのだ。

 無法ケンイチは窓口係に目もくれず、真っ直ぐにエレベーターホールへと向かうが、警備員がそれを止める。


 「ちょ、ちょっとあなた、誰ですか。部外者は窓口を通して……」


 「うるせえッ! おれは無法ケンイチ。今日、カクヨム作家にに来たんだよッ!」


 「なっ……。まさか、お前ッ……。にッ!?」


 警備員のその叫びに彼はニヤリと笑い、その拳を躊躇なく警備員の顎に殴りつけた!


 『バキッ!』


 「アガッ!」


 警備員は倒れ、無法ケンイチはエレベーターホールへと向かっていく。

 ――『カクヨム作家に成る』? 『裏のカクヨム作家』? 一体……?

 疑問符だらけの僕の思考は、倒れた警備員が必死に無線へ連絡をする声で掻き消えた。


 「非常事態だ! ああ、遂に『カクヨム作家』が本社に現れた! そうだ、『カクヨム作家』だ! とんでもない『創作力そうさくぢから』だったぞ! オイオイ、嘘だろ、まだ来やがるぞ! 非常事態プロトコルを発令しろォッ!」


 警備員の目は僕の背後の入口へと向けられていた、僕がそちらへと振り返ると、そこには何人もの、鎖鎌やライフル銃、剣や杖、果てはよくわからない手から出る波動のようなものを操る、異常な集団が、無法ケンイチの見せたのと同じ不気味な笑みを浮かべてこちらに向かっていた。


 「これは……!? 彼らは一体?」


 「オヤオヤ……カクヨムで賞をもらったのに知らないとは、ずいぶんな情弱だねェ『文山比文』くん……」


(続く)

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