第20話 おかえり

あの日から僕は、数限りなく彼に会いにいくようになった。


晴れの日にはペットボトルの水をかけ、雲が悪しき日には心配になり呼びかけに行った。


あれからというもの、目の前で語りかけていても彼の中に入ることはなかったけど、それは彼が現実の世界で半歩づつでも前へ進もうと努力しているんだって、どこか彼の色艶や雰囲気で感じ取れることができたから、もうそれでよかった。


まぁ本音はまた語り合いたいという期待を秘めて会いに行っていたんだけど…。


彼女には、奥さんには数日後に話をした。

あの日帰ってからはさすがに話をする思考が間に合ってなくて、その翌日も頭の整理ができないでいると数日経っていたというのがほんとのところ。


でもその間彼女は何も聞いては来なかった。

たぶん僕の様子を見て聞くに聞けなかったというのがあったんだとは思う…。


そして5日後?6日後?の休日の前夜、ようやく彼女に声をかけて事の始まりから順を追って話をすることができた。


最後まで驚く様子もなく話を聞いていた彼女は、僕が話終わるとしばらく黙りこんだまま考え込み、そして口を開いたんだ。


『じゃ、現実の私もいるってことじゃないっ?!

そしたらさっ、ま、会えるかどうかはわかんないけどね、現実のアキラが現実の私に会うの、楽しみじゃない?

アキラを見てれば本人は他の理想もあるんだろうけどさっ、私達に関して言えばだけど、お互いに協力して現実の自分の背中をさっ、押してかなきゃね!

…てかそう考えると…、なんか、なんか私達って本人の先生みたいだよねハハハ!』


そのまったく思っても見なかった彼女の返答に、改めて僕は彼女と出会えて良かったって、僕にとって居るべくして居る人なんだって痛感させられてしまったんだ。


僕はすべてを知ったあのときから思ってたんだ、現実の自分が理想を叶えてしまったら、もしかしたら僕らはいつか消えてしまうじゃないかって。


でも、そんな僕の懸念を彼女はいとも簡単に吹っ飛ばして、その人柄を全面に100点満点の道を導いてしまって。


その考えからすると僕らは消えない、僕らはずっと現実の前を歩み続けられる。

そう思うと嬉しさが込み上げてきて、僕は彼女の身体がミシミシ鳴るほど抱きしめた。


僕らはこれからも生き続ける。


だけど現実というのはそう簡単に変化するものではないとも思ってる。

彼もそう、そう簡単には変わらないだろうし、ずっと変わらないものもあるだろう。


ただ僕や彼女、そしてアミが何かを変えられる気がする。

そして僕ら以外にも、誰かが何かを変えられるキッカケを手助けしてくれるはずだと感じる。


1勝9敗を、2勝にしていくんだ。 3勝7敗を、次は5勝にしていくんだよ、少しづつ、着実に、お互いで。


まだまだ終わりじゃない、まだまだ終わりは来ない。


僕と彼、彼と誰か、、そう、これから僕らは互いにダブルスとなって生きていくんだから……



………



…………『パァパァ~?、、パァパァー?』



気づくとアミが僕の手を揺らしながら見上げていた。


「あぁごめんごめんアミ、考え事してたハハ」



あの日の出来事以来、休日の今日は久しぶりに家族3人で彼に会いに来た。


それは奥さんたっての希望と、アミもお花お花ってジャンプしながら足にしがみついてきたためだ。



今朝はすこぶる良い天気で、雲一つない快晴。


湖まで続く遊歩道をアミと手を繋ぎながら左右の景色を眺め歩いていたら、つい思いにふけってしまった。


「もうすぐだからねアミ、楽しみだね。」


そう言うとアミはスキップをして喜ぶ。


そんなアミを見てなんとも言えない爽快な気持ちになり、僕は隣にいる奥さんと目を合わせると、「ありがとう」と言って彼女を引き寄せた。


やがて彼の前に辿り着き、僕はいつも通り彼のまわりを少し綺麗にする。


その光景に奥さんは、

『なんだかお墓参りみたいだねフフフ!』としゃがみこみながら少し笑い、僕も可笑しくなって同様にクククと笑った。


「ただいま、見えるかな?今日は家族で来たんだ」


僕はそう彼に語りかけた。


もちろん返答は聞こえてこない。


すると僕の隣で座り込むアミは不思議そうな顔をして、彼の頭を人差し指で横からペシッとはたいた。


「あっ…」

『こらアミィィ、ダーメッ』


すかさず奥さんがアミの手を掴んだとき、

ママの声はどこ吹く風のようにアミは彼を覗き込み、顔や口元を大きくほころばせながら僕らにこう告げた。




『イタァッ!!ってーっ!!……


…だいすきだよぉーみんなぁぁ!!ってーっ

うひひッ!!


…おかえりぃーー!!ってぇぇパパぁーっ!!』





お わ り

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