第19話 おかえり

僕はまた住み慣れた殻に閉じこもってた。


もう彼と会うことはないだろうし、たとえこの状況を脱したとしても合わす顔すらないって思ってたけど…。

ただ…、、ただどうして…、こんな、こんな精神状態にも関わらずまだ彼の躍動感が僕の中にいるのか…、どうしてなんだよわかんないよ…って困惑してた。


これまでも似たようなことを繰り返し巡らせてきた思考の中で、変われない諦めという防戦一方の闘いを彼はいつも一騎当千の如く耐え忍ぼうとしてた。


僕はもういつ消えてもある程度自分の生き方はしたなって思ってたけど、でも彼がいるから…、彼がまだ終わりじゃないぞって拳を振り上げて僕の弱虫に立ち向かってくんだよ。


僕だってほんとは何事も闘っていきたいんだ、辛いことも含めて。

その中で味わってみたいことがあるけど、、ただ僕という性質でイタッ!!…



突然バシッと頭を強く叩かれた、というか横からはたかれ咄嗟とっさに声が出た。


そして急に目の前が明るくなると、幻覚なのかなんなのか、小さな女の子が座り込み辺りに降り注いだ雪を振り払ってる姿が見えた。

そしてあれだけ降っていた雪も、今小降りになっている。


どうやら僕の声が聞こえたのか、女の子は真ん丸の目をさらに大きくして僕を覗き込み、口角を上げながら『さむいーねー』と言う。


その満点の笑顔を見て僕は驚いてしまった。


ハッキリとはしないけど、この子は僕が思い描いていた理想の子供の雰囲気にそっくりで…。

そしてなんというか、親しみと言えばいいのかどこかその全体像に愛着を覚えてしまう。


しばらくその女の子を眺め見ていると、林の向こう側から女性の声で、


『アミィィ、あんまり林の中入ったら危ないからダメだよー、てゆうかアキラ~、どこー?』と呼ぶ聞こえてきた。


その女性が呼んだを聞いた瞬間、僕は仰天して一瞬身体が硬直し、女の子を前に開いた口がふさがらないまま確信した。

…やっぱりそうなんだ!!…


女性が呼んだ名前、、、それは僕の名前だったからだ。


…この子は僕の…、と思ったときにはもう言葉を発しちゃって…。


「あぁぁ!ありがとうだいすきだよぉぉ!!」


すると娘は特大のニンマリ顔を返事がわりに、僕の後方に手を差し伸べ「パパ~」と言うのでさらに飛び上がった。


えーっ?!

僕の後ろに彼がいるのーっ?!…


振り返って見ても僕には服の壁しか見えない。


ようやく彼を見つけた女性、…いや奥さんかぁ、すごい暖かそうな人だ…、は彼を覗きこみながら安堵のタメ息とともに話かけると、彼はどうやら直近の記憶が飛んでしまい僕とのことは覚えていなかった。


おそらくそれは僕が突如追い出したからだって悟った。


そして娘は去り際、振り返ると左手に持っていたチョコレートを僕の前に置いていき、指でバイバイをしながら歩いていった。


空は彼らが去るのをまるで待っていたかのようにまた大粒の雪を落としだして、今度こそは本降りだぞというような降り方をし始めて…。


降りしきる雪の中、僕は目の前にあるチョコレートを見てようやく気づくことができたんだ。


もう自分ならできるって無理に強がってちゃいけないって、助けを求めることに恥てちゃいけないって。


誰かへの迷惑や物事の失敗で生まれる自責の念や理想とのギャップ、それに屈して僕は自分はダメな生き物だって、バカだからって自傷し続けて、思えばそれに慣れちゃって自分への免罪符に変えてきたんだ。


だからダメになったときは誰かや何かに頼ろう。


そう思って…、降り積もる雪を見て大きな声で助けを呼ぼうとしたら…言おうとしたらね、雪と一緒に上からフワフワと何かが降ってきて僕の頭に被さったんだ。


それをよく見ると大きな一枚の葉っぱで、、近くにいる大きな誰かがかけてくれたんだと分かった。


でも、声に出さなきゃ今の僕にとっては意味がないと思って、


「お願いします誰か!助けてください!お願いします!」


って言ったら、僕の前後左右に色んな葉っぱが降り重なって…。


まわりの色んな植物さんがね、僕を包む大きな傘を作ってくれて助けてくれたんだ。

その中でチョコレートの端っこも見えてて…、僕にとってその全てが雪が溶けるくらい暖かく感じて。



そして最後の最後にはね、やっぱり彼が現れたんだ。


彼が僕の劣勢に駆けつけてくれたんだ。


記憶がなくなっちゃったはずなのに、どうやってこの場所に辿り着いたのかはわからないけど。

やっぱり来てくれたんだ。


僕はみんなのおかげでもう大丈夫だったんだけど、彼の言うとおり終わりにしちゃいけないなって、勝手に終わっちゃいけないなって、ほんとに思った。


彼を信じて、誰かを信じて、自分を鼓舞してこれから生きてこうって。


もう、変われない自分を諦めたりは絶対しないよって、僕は彼に向かって涙ながらに叫んだ。

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