第12話 ポテンシャル
昨夜は帰宅すると22時を過ぎ、ご近所は就寝前の静けさに覆われていた。
玄関を開け部屋に入り、畳の上にボトンッっと夕食のコンビニ飯を置くと、膝カックンされたように突っ伏したことは覚えてはいるが、あまりその後の記憶が定かではない。
翌日となる今朝は小降りの雪が降ってはいるが昨日ほどのものではなく、どうやら冬将軍様御一行の名残のようだった。
…あわよくば除雪されててくれ…
アパートの階段を下りながら淡い期待を持ち総合体育館の駐車場に向かう。
現地に着くと、案の定身勝手な期待は蹴散らかされた。
昨日の状況のまま、というより今朝までの降雪と風の影響でラッセル跡はリセットされ、積雪も10㎝ほど増していたのだ。
…よし!やるか!…と、不思議とやる気の自分に切り替わり、心体にエネルギーが駆け巡る。
早速体育館の受付へと向かいママさんダンプ(大きなソリ形状の除雪器具)を丁重に断りをいれお借りし、再び車がある駐車場に向かった。
今日はスコップとママさんダンプ、両方を駆使しとにかく積雪をブン投げるヘビロテルーティーン。
開始してからおよそ1時間に1回の休憩をはさみながら、それがやがて30分に1回に変動し、除雪されている駐車場入り口付近までの動線(車が通れる幅)の雪を左右に放り投げ続けた。
やがて作業が進むにつれ、終わりまでの残雪量や所要時間が計算できるようになると、不思議とパワーや気力が新たにみなぎってきた。
そして作業開始からおよそ5時間が経った午後15時頃、動線の積雪すべてを除雪し車が通れる状況になった。
…意外とできるもんだなぁ…
そんな言葉をつぶきやがら乱雑になった車内を整理整頓し、先ほど僕が除雪した道を通り抜け車を安全地帯まで移動。
そしてお借りしたママさんダンプも体育館に返却し、今回の自爆ミッションを2日がかりで完了することができた。
時は夕刻、お日様は地平線に帰り空は暗闇に染まりつつあった。
今日という日に行かないでいつ行くのと言わんばかりに、車で10分程にある行きつけの温泉に僕は行くことに決め駐車場から車を出す。。
そして運転しながら異様な達成感に浸っていた。
その異様な達成感というのは、ようやく除雪作業が終わった喜びもあれば、前日のコンディションを闘い抜いた満足感も加味していたと思う。
そしてなにより当初独りじゃムリだろうと思っていたことが、気持ち半ばでスタートしたとて可能にすることができることもある、と経験できたことだった。
もし次、同じような事態が起きてももう僕はヒヨらないと思った。
必要な道具、おおよその時間、どれくらいの体力消費があるか今回で把握できたから。
…不安や心配や弱さっていうのは、どうすればいいか知らない事や、どれくらい時間がかかるかわからない事や、どういう状況になるか想像つかない事で芽生えるもんで、その感情を少しでもマシにするにはとにかく始めて直面しなきゃわからないんだなぁ…
ということがその達成感に添えられていた。
誰にでも何かしらやり遂げられることがある。
そのポテンシャルを僕も持っているんだなって、道行く人達と肩を並べた気分で嬉しくなった。
チッカ、チッカ、チッカ…
左ウインカーを出し、狭い交差点を左折する。
すると右手にお目当ての温泉が見えてきた。
…が、しかし、、、温泉を目の前にしてさらなるお試しが待っていた。
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