第9話 先生

「センセーっ!」と言う歓声を浴びながら、彼らのもとへと歩いた。

やはり昔から、アジア系の人達の日本語意識に「先生」という言葉は定着しているんだなと感じていると、満面の笑みでリーダー格の男が駆け寄ってきた。


「Thank you!センセー!」と言う彼に、『OK, Lets do it』と片言の英語で鼓舞したが、およそ7時間弱の除雪後だ、声に覇気がないのが自分で分かる。


まずは特攻隊長のように、ドアノブ付近までどっぷり浸かった運転席側にスコップを刺し入れたが、それも始まって最初の10分くらいだけ。

すぐに息が荒くなり勢いが低下、思うように雪を掻き出せなくなった。


そんな僕を見て仲間の大学生らしき男が、「交代しよう」というようなジェスチャーをする。


だが僕は『ドンウォリ~、センキュウ」と強がった。


それは日本人代表という訳の分からない義務感が発動したことで、日本人ダサイというレッテル張りを心から拒んだ、というか避けた返答だった。


だがしかし…、日本人代表はヒョロかった。


その後車体全長の半分を除雪したところで、その義務感は脆くも崩れスコップを自ら彼に手渡す。

僕の意地やプライドというのは所詮そんなもんだった。


そうして僕と彼ら3人は共に頑張った。

ようやく車が脱出できそうなくらい除雪したところで、阿吽あうんの呼吸とばかりに休憩タイム。

リーダー各の男がタバコに火を点け、僕にも「どう?」とたばこの箱を向けてきた。


僕は久しぶりにタバコに火を点けた。

疲れのせいか大して味も何も感じなかったが、タバコを吸いながら彼らとつかの間話をした。


どうやら彼らは1ヵ月間日本を旅行中で、そのほとんどをスノーボードをしに北海道に来た台湾人だった。


そこで、僕もボーダーだぜ!っと言うと、彼らはえらく喜んだ。


リーダー各の男以外の二人は中国語しか喋れず、知っている片言崩れの日本語でお礼ばかり告げてくる。

僕は大丈夫だぜと返事をしながら、心の中では…俺の車も手伝ってくれないかなぁ…という願いを唱えていた。

だが考えてみればその除雪量は半端じゃなく、時間も時間、体力もない、そしてこれから彼らも用事があるだろうと口をつむんだ。


休憩後、いざ車を動かしてみる。


…が、動かない、タイヤがオラオラと意気込みながら空転するのみ。

それからはとにかくタイヤ付近の除雪を再三行い、車を3人で押しまくりながらアクセルを踏んでも微動だにしなかった。


…こぉぉぉれは、、、夜遅くなるなぁ最悪な事態だ…

心が弱音を吐きまくった。

リーダー格の男は諦めずタイヤ接地面を除雪し続けている。

その反面僕は疲れきり立ち尽くしていた。

いや、体力よりもメンタル的に疲れ果てていたというのが正解だろう。


そう、まったく僕はセンセーと呼ばれるような精神力や牽引力けんいんりょくを生まれ持ってはいなかったのだ。

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