第7話 先生

ドスッ  …ハァハァハァ…


冬将軍様による僕への罰則、大雪暴風足下バッフバフというトリプルコンディションの中、重さ16.5kgのジャッキを持ち家から駐車場までの距離およそ2kmを歩き終えた。


夕方に考えていた通り、今日はもうスタックした車を動くようにして、残る本丸、動線の除雪は明日にしようと決意する。

無論、およそ長さ約30m×幅3.5m×高さ胸程の積雪を今から除雪する体力気力があるわけない。

今日最後の頑張りだと気持ちを奮い立たせ、車体下にジャッキをセットし車を持ち上げた。


まずは車体下の氷をある程度かち割り、次にタイヤ接地面周辺を雪で床上げ。

そして床上げした雪面に自前の雪板を敷いて地を安定させた。


試しに車を持ち上げていたジャッキを下ろしてみると、誰が見ても100点の出来ばえに思え、エンジンをかけ車を発車させてみる。


僕はえらい、難なく車はスタック状態から脱出をした。


車内の時計を見ると時刻は20時過ぎ。

午後、除雪を始めてから既に7時間が経過していた。


…あぁぁ疲れた...帰ろ…もう帰ろ……よーやく帰れる…


道具類を車内に投げ入れ車を施錠。駐車場入り口までの腰ラッセルを歩き出す。


何度と往復したラッセルの跡は、新たに積もった雪で半分無くなりかけている。

それを見たとき僕は立場もわきまえず願った。


…今夜、駐車場全体を除雪しといてくれ…除雪業者さん!…と。


ふらつく足の中駐車場入口付近が視界に入った。

すると車のライトが駐車場へ入ってきたように見え、、たと思ったら、ライトがガクンと上下しそのまま静止。


…なんだなんだ、どした?、、…

ようやく除雪された入口付近まで辿り着くと、ツーリングワゴン車がウンウンと唸っている。


…あぁ…、スタックしてる…

近くまで行くと、運転席側全体が新雪の壁に突っ込んでいた。おそらく吹雪で視界が確保できず道が見えなかったのだろう。

まもなく助手席側から若い男が3人降り、なにやらワヤクチャな会話をしている。


『大丈夫ですか? スタックしましたね…』と僕は声をかけると、3人は中国語をまくしたて合っていた。

そして1人が車内からスノーブラシを引っこ抜き、車体の下を除雪しはじめる。


…そんな棒、屁のツッパリにもならんからなぁ…と心でつぶやく。


もう僕は疲れきっていた、、けど見て見ぬふりするわけにもいかない心がなぜかあった。

ぶっちゃけ帰りたい、けど見捨てるなんてことは…。


そこでここは体育館従業員に助けを呼ぼうと考え、総合体育館に向かい受付で事情を説明。すると、


ーー 我々ではスコップ等の道具をお貸しすることしかできません… ーー


そう、返答された。万事休す、当然の結果だった。従業員達も勤務中、手を離すわけにはいかないものだ。

…自分がやるっきゃないな…と、ここでようやく意を決する。


ならば、この大きな鉄のスコップだけでもと、受付に了解を得てスコップを手に体育館を後にした。


そして除雪中の彼らはスコップを手に歩いてくる僕に気づくと、リーダー格の男を筆頭に歓声に近い声をあげ、こう叫んだ。


「アアアーッ!! センセーーッ!!(喜)」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る