第2話 出立


その日は前夜から冬将軍様御一行が列をなしてお通りされ、町は大量の雪に覆われ続けていた。


そんな悪天候な日に幸運にも二連休という僕は、朝食後に朝からオンラインゲームに勤しんだ。


中学生ぶりにやり始めたそのゲームは、ゲーマーの中でもけっこう人気のFPSゲーム。

AIによって適正のレベルに振り分けられたプレーヤーは、公平に同ランク帯同士(5vs5)でチームとなり勝敗を争う銃撃戦FPSゲームだ。


まずは初戦を前に、練習場でロボット相手に準備運動ならぬ試し撃ちをする。

そして指が温まってくると…よーし!… とチーム戦のスタートタグをクリック。すぐにマッチングした。


…さてまずは… と自分が使用するキャラクターを選択。

そして同時にチームメイトのアカウント名も上から下へと流し見た。

するとその中に、【春から大学生】という名が目に入った。


ニヤッ …これはめでてーな~…


そう思ってからすぐテキストチャットを開き、『高校卒業おめでとう!』と送信。

まもなく「ty」と画面下に返信が来た。

(ty=thank you ※ゲーマー省略表現)


…うわっ、こういうときもtyなんや!…

ゲーム歴の浅い僕にとって、ゲーム内での言葉のやり取りが新鮮で嬉しかったということもある。

だけど一方で、tyという略語で返してきてくれたことで、なんだか僕もゲーマーの一員になれたような気になって、ダブルで嬉しくなった。


そうこうしているうちにゲーム開始のカウントが鳴る、 7…6…5…4…。


まもなく始まる決戦を含め、来る大学生活という門出に、


『nc!(略nice)頑張ろう!』と追送。


その名には、主の喜びや高揚を感じなくもない。

…ヨシ、僕も色々頑張ろっと!… と、見知らぬ人の名前一つで朝から元気づけられた。


そしてそれからの二連休は、まさしく頑張ることから逃れられないことになってしまう…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る