ダブルス

@deuteranopia

第1話 おかえり


  イィタタタタッ!


近くで苦悶の声が聞こえたような気がした。

これで何億回目だろうか…。

また空耳かと次の一歩を踏み出しながら辺りを見渡してみる。


鬱蒼とした林の中で生き生きと成長を遂げている植物達。

また、何かが枯渇したような様子の雑草達も視界の中に見え隠れ、それぞれが様々な環境で生息しているのが見てとれた。


空からは予報通り雪が降り始めてくると、

後ろから自分を呼ぶ声が聞こえたような気がした。


でも僕はなぜか足を止めようともせず前へ前へと動き続ける。

「お金持ち!」

「サッカー選手!」

「パン屋さん!」

まるで夢を語る子供のような、そんな足取りで。


どうしてこんな感覚で歩いているのか自分でも不思議に思えてならなかった。


目的はあと500mと標されていた湖。

ただ僕の身体は、【熊出没注意】と書かれている遊歩道脇の林に向いていく。


いったいこのはやる気持ちはなんなんだろう…。


その不思議な感覚を考え歩いていたその時突然、イィタッ!と、今度は足下で声がした。

と同時に、僕は転んでた。


『イッテテテテ┅。』


すってんころりん宙を舞ってしまい腰とお尻を強打、その地味な痛みに堪えながら振り返り転んだ原因に目を向ける。


…えっ…


それは石でも砂でも油でもないまったく予想していたものと違い、少しのけ反りながら驚いてしまった。


転んだ原因、僕が見たもの、それは…

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