住宅の内見にはご注意を

アオヤ

第1話

 「今日はどの家に内見しに行こうかな?」

俺は気ままにいつものルートを散歩しながら今日の気分で入れそうな家を決める。


 「今日はあの家にしよう」

俺は今日の内見先を決定した。

そして自分の家に入るかの様にチャイムも押さずに開いていた扉から堂々と玄関に入って行く。

「おい、俺が来てやったぞ。この家はお客様になんのもてなしもないのか?」

声をかけるが何の反応も無い。

「チェッ、今日も誰も居ないのか?」

リビング、キッチン、寝室と誰か居ないか探し回るが人影は無かった。

テーブルに酒のつまみのサラミと裂きイカが無造作に置いてあるのを見つけた。

俺は「こんな所に置きっぱなしにして… しょうがないな」なんて言いながらそいつらをキレイに片付けた。

大して残っていなかったので俺は少し物足りなかった。

「チェッ、これっぽっちか。ここはしけてやがんな」

なんて捨て台詞を吐きながら一軒目を後にした。


 二軒目は玄関には鍵が掛かっているのに廊下のガラス戸が閉まっていない不思議な家だ。

もしかするとただ建て付けが悪くて閉まらないだけなのかもしれないがそんなのは俺にとってはどうでもいいことだ。

いちいち確認した事など今まで一度も無い。

俺は廊下から家に入ると、そこは陽だまりでポカポカしていて暫く日向ぼっこしていたい気分だった。

だがまだお腹が満腹になって居ないので先にリビングやキッチンを物色した。

キッチンのテーブルにはえびせんべいが何枚か有ったのでそれを頂く事にした。


 「ただいま~」

人の声がしてそちらを振り向くと玄関に立ってる人と目があった。

俺は暫く固まった。

「このドロボー猫め。シッ、シッ!」


 「違う! 俺はココに内見に来ただけだ」

『俺の話しなど聞く耳を持たん』という顔でその男は俺に迫って来る。

俺は身の危険を感じて慌ててその場を離れた。

日向ぼっこで昼寝なんかしていたらどうなっていた事か?

考えるとゾッとする。


 俺は今日の内見はもう諦めて魚屋の裏口をうろついた。

「おっ、今日も来たな。今日はアラしか無いが食っていきな」

オヤジがアラで山盛りになった皿を出してくれた。

見た目は茶髪でイカツイ顔のオヤジだか俺には優しく接してくれる魚屋の店主だ。

「腹減ってたのか? いい食いっぷりだ」

オヤジは俺の顎の下をくすぐって来た。

お腹もイッパイになって気持ち良くて少し眠くなって来た。

次は昼寝が出来る場所を内見しなくては……

こうして俺は様々な場所を内見して回って行く。


 ###

 「ほら餌だぞ。今日も空き巣に入れそうな家の情報をちゃんと集めて来たか?」

俺は猫の額に取り付けたマイクロカメラからSDカードを取り出しパソコンにセットした。

「まさか猫が空き巣に入る家の情報を集めているなんて誰も気がつくとまい」

俺は腹の底から笑いがこみ上げて来るのを感じた。


 『ピンポン』

突然インターホンが鳴って俺はビクッとなった。

宅配でも来たんだろうと思って俺は無造作に玄関の扉を開けた。


 「石井彰だな、窃盗の疑いで逮捕する」

玄関から入って来たのは警察官で俺はアッサリ取り押さえられてしまった。

なんで警察に空き巣していたのがバレたんだ?

絶対に分からないと思ったのに完全犯罪なんて成立しないのか?


 ###

 「パパ、猫に何取り付けてるの?」


 「これか? コレはGPSと超小型の盗聴器だ」

俺はヒソヒソ声で娘に話した。

「この猫の額に超小型のカメラが付いているんだ。何か犯罪のニオイがする。コレを取り付けて警察に情報を渡す」


 娘は興味津々な目で俺を観た。

「なんだかパパ探偵みたいだね。犯罪者捕まればいいね」


「ああ全くだ。猫を使って犯罪を行うなんて最低だな。」


 ###

 俺は猫だ。

名前などとうの昔に置き忘れてしまった猫だ。今日もいつものルーティンを繰り返す。

今日はどの家を内見しようか?

べつに楽しい訳じゃない。

ただ生きる為だ。

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住宅の内見にはご注意を アオヤ @aoyashou

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