1-3
*****
その夜、
朝の一件が衝撃的過ぎて、気付くとジェイドの事を思い出しドキドキしてしまい、父から
なにがどうしてこうなった?
数時間が経過してなお急展開に思考がショートし、半ば放心状態で
ハンカチを渡した事に起因する、余りにも不可解な婚約の申し出に、考えても考えても一向に最適解が導き出せない。
幼い頃から読書や勉強が大好きだったミリエッタ。
内向的なミリエッタを心配し、両親が同年代の令嬢と引き合わせた事もあったのだが、共通の話題も無く、かといって話を振っても噛み合わず、緊張で顔を赤らめながら
友達を作るのはこんなに難しいものなのかと半ば諦め
せめて得意な勉強で両親の期待に応えようと部屋に籠もって勉強ばかりしていたからか、王立学園に通う前年には中等教育の
より高度で専門性の高い知識を得たいと願うミリエッタに、それではと
「王立学園は中等部の飛び級は無く、
習得度を
今まで友達と呼べるような同年代の知り合いもおらず、進学すれば友達が出来るかもしれないという期待もあったのだが、それ以上に知識欲が勝ってしまい、王立学園へは入学せずそのまま領地で勉強を続けることにした。
そんな中、父の仕事相手に連れられて、年の変わらぬ御令嬢達が
親友と呼べる友達が出来、領地経営を手伝ったり翻訳の
これほど
兄のアレクと
ダンスの後、落ち込むミリエッタを気遣いアレクが会場の
ダンスを誘ってくれた男性もいたのだが、ステップを間違えないよう足元を見るのに
だがその後参加した初めての夜会では、年頃の令息に目を逸らされ、歩み寄れば俯き逃げられ、何がいけないのかも分からないまま
唯一目が合う四人組の男性は、明らかに他の貴族令息達と
さらには遠巻きにする令嬢達が話し掛けたそうに見ているため、
その日は兄と一緒に会場を回り、お年を召した諸侯達に話し掛けられるうち、何が起こるでもなく終わってしまった。
帰宅するなりベッドに突っ
何故
昔はもっと上手に、自分の思いを伝える事が出来たのに。
日を追うごとに自信が無くなり、言いたい事も言えず内に吞み込む事が増えてくる。
「夜会なんて、もう行きたくない! どうせ上手くいかない……誰も私の事なんか、好きになってくれないもの!」
心配して部屋を訪ねた伯爵夫人││ 母が、ベソを
「でも、誰も貰ってくれなかったら?」
「想いを込めたプレゼントを断る男性なんて、論外だわ。むしろ断られて良かったと思いなさい。……失敗しても恥ずかしい事なんて一つもないわ」
励ますように微笑む母に少し元気を取り戻したミリエッタは、
「誰に渡したら良いか分からない時は、いつも夜会で話し掛けてくださる公爵閣下にでも伺うといいわ。色々な事をご存知だから」
小さな子どもをあやすように、よしよしと背中を優しく
「それにうちは経済的にも困っていないし、アレクという立派な
うふふと微笑み、それから気合いを入れるようにミリエッタの背中をパシリと叩いた。
「最初で最後だと思って、誰でもいいから渡してきなさい!
そんな感じで発破を掛けられ、『適当』な方に渡した結果、まさかこんなことになろうとは!
うん駄目だ、考えても考えても分からない。
「ねぇハンナ、ジェイド様はどうして求婚したのかしら?」
「トゥーリオ卿でございますか?」
ミリエッタに問いかけられ、湯上がりの
「あんなに素敵な方だもの、
「
「では何かの
俯き、溜息を吐いたミリエッタを元気づけるようにハンナは言葉を掛ける。
「何を仰いますか! お嬢様は大変魅力的でいらっしゃいます。こんなに素敵な御令嬢は、どこを探してもおりません!」
「またそんなことを言って……そんな訳ないのに」
「いえいえ、お嬢様が信じてくださるまで何度でもお伝えしますよ? 何といっても王国一の御令嬢ですからね」
「ふふ、ありがとう。でもやっぱり、お断りしたほうが良い気がするわ」
「お嬢様はもっと自信を持つべきです。そのようにご自身を
「……そうかしら?」
「そうですとも、折角誘ってくださったのですから、お断りなどせず楽しんで来ればよいのです! 五日後が楽しみでございますね。お嬢様が楽しく過ごせるよう、私も
「ハンナったら……そうね、それに一度
「
ろそろお休みください」
微笑み部屋を後にするハンナを見送り、ミリエッタはゆっくりとベッドに横たわった。
未だ理由は分からないが、あんなに素敵な男性に誘われればやはり嬉しく、ふわふわと浮き立つ気持ちは
夜々中まで考えを
******
「……え?」
去り際、引き抜かれた手の
勿論ミリエッタにそんな気が無い事は分かっているのだが、このチャンスを逃すつもりは毛頭無い。
帰路に
逃がす気はない。
――――どんな手を、使ってでも。
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