1-2
ああ~~、どうして私、お母様の言う通りにハンカチを渡してしまったんだろう。
しかも公衆の面前で!
もう泣きたい……。
昨夜の出来事を思い出し、
来客かしらとそっと部屋を出て少しだけ顔を
驚きのあまり口元を両手で押さえながら再度そろりと覗くと、面識があるのか母が微笑みながら
え? まさか昨日のハンカチを返しに?
いやいやそんな
応接室に男性を案内した母が何かを申し付けると、数人の
ミリエッタはこっそりと自室に
「お
何が何やら分からぬまま、通常時の三倍速で
ら声がかかった。
慌てて応接室に向かうと、待ってましたとばかりに立ち上がり、ミリエッタのもとへつかつかと歩み寄る。
「こんにちは、ミリエッタ嬢。トゥーリオ
よりによって、公爵家の方に渡してしまうとは……分不相応な自分の行いに、早くも
「ミリエッタ・ゴードンと申します。こちらこそ、昨夜はありがとうございました。お怪我の具合は
自分のせいで怪我をさせてしまった昨夜の一件。
申し訳なさそうにジェイドへ問いかけると、「お気遣いなく。あの程度、怪我の内にも入りません」と、事も無げに返される。
「本当に申し訳ございませんでした。……あの、本日は一体どのようなご用件で?」
夜会での鋭い眼光とは一変し、柔らかな
そもそも誰なのかすら分からなかった彼の名前が判明したところで、本日の来訪目的が気になって仕方ない。
「
「婚約の申し込み!?」
昨日の今日で!?
あまりに急な展開にミリエッタはヒュッと息を
笑顔で
「昨夜も告げた通り、本当に深い意味は無いのです。気を悪くさせてしまったら
夜会で睨まれた時のことを思い出し、怒られはしないかと
「……そうでしたか」
ふむ、と困ったように首を
貴族令嬢ならば、誰もが
そのうちの一つ、トゥーリオ公爵家の次男……
「それでは
急に
突然降って湧いた婚約話。
ハンカチを貰った手前仕方なく来たのか、婚約者探しに難航する自分を
いずれか判断が付かず、ミリエッタは混乱する。
そのすべて、というパターンもあるわね……。
何やらどんどん悪い方向へ考えてしまい、今にも人間不信になりそうである。
「ですが……無かった事になど、したくはないのです」
眉を
「信じてもらえないかもしれませんが、本気です」
真っ直ぐに向けられた
……あとから間違えましたと訂正しても、問題ないと聞いていたのに。
「あ、あの、トゥーリオ
「ジェイドとお呼びください」
「その、……ではジェイド様」
「はい、なんでしょう?」
「いくらなんでも、こう、あまりに急過ぎるのではないかと」
「実を言うと、昨夜は感激して
照れくさそうに告げる様子があまりに
「昨日の今日でご
理解が
あらまぁと母の
「おおお待ちください! あまりに急なお話で、いきなり婚約と
「ご安心ください。意に染まぬ
「ですが少しでも私を知ってもらい、願わくば心の
本人の意図するところではなさそうだが、生来の高貴な血筋が為せる
お母様の厳命でこうなったのだから、どうにかしてください!
助けを求めるように再度両親へ目を向けると、
――ち、ちがうちがう! そうじゃない!
予想外の方向へ飛んだ援護射撃に及び
ハンカチを渡すだけだから重く考えずとも大丈夫だと、背中を押してくれたのは、誰だったか。
「そういえば、最近人気でなかなかチケットが取れない
少し遠ざかった距離を以てしても体格差があるため、特に威圧している訳ではないのに圧倒されてしまう。
「折角なのでお
ミリエッタは無理矢理微笑みを浮かべ、受けようかお断りしようか
「あ、あの、……ッ」
真正面から見つめられ、どうしてよいか分からず目を泳がせたミリエッタに、ジェイドは言葉を続けた。
「三日後と五日後ですと、どちらが
「え、ええッ!? どちらかというと、五日後のほうが……」
「承知しました。それでは、五日後の昼過ぎにお迎えに上がります。
あ、しまった、と気付いた
思考停止状態で頷いたミリエッタは、流されるまま二人きりのデートを承諾してしまうのであった―― 。
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