夜会で『適当に』ハンカチを渡しただけなのに、騎士様から婚約を迫られています
六花きい/ビーズログ文庫
1 『適当』に渡した白いハンカチ
1-1
人前に出るのが苦手な上に内向的な性格、友人も片手で余るほどしかいない。
いまだ
勉強だけは
特筆すべきは、
「
母に
本来であれば一針一針想いを込めるべきところだが、
これを貰って喜ぶ人が果たしているのかと疑問に思いつつ、
デビュタントの日を除けば、夜会に参加するのはこれで二回目。
両親は「お前が気に入った相手を選んで良い」と再三にわたり言うものの、初めて参加した夜会では運命的な出会いもなく、
それでも勇気を出して自分から歩み寄ってみれば、下を向いて足早に
話し掛ける勇気すら無くなり、それ以来夜会に参加する気力も
時間だけが過ぎていき、
お年を
毎度のことながら
だがしかし、
……とはいえ、社交界に
婚約者がいない
「閣下、
背に腹は代えられず、
「実を申しますと本日の夜会で、どなたかに『ハンカチ』を渡すよう母に申し付けられておりまして……渡しても角が立たない婚約者のいない未婚男性で、お
そう問いかけた次の
「ふむ、それでは
閣下と呼ばれた
「どちらでも……年が
その答えに、先程まで歓談していた一人目の公爵が、ビクリと大きく
「では職業について希望はあるかな?」
「いえ、……職業に、
今度は二人目が、今にも
ふと白髪の男性の視線が動き、ミリエッタがつられてその先を
「――?」
何かしてしまったのだろうかと不安気な
「それでは最後の質問だ。少し気難しいが、真面目で勤勉な男。……
少し考えながら、ゆっくりと、言葉を選ぶように
「
「……選べるような立場ではございませんので、閣下が薦めてくださるのであれば、どなたでも。ですがあまりに立派過ぎると、私には少々荷が重いかもしれません」
またしても動いた視線の先をミリエッタが
「――――!?」
「あれも気にしなくていい。持病の
「それならば、ほれ、そこに立つ男達はどうだ?
「……ですがその、見る限りどの方もとても
四人が四人とも貴公子然としているため、急に不安になってくる。
「どなたも貰ってくださらないのでは」
ぽろりと弱音を
「重く考えずとも
「……ありがとうございます」
それもそうね、何も重く考える必要なんて無いのだわ。
あんなに素敵な方々だもの、ハンカチを渡されるなんて
実は見覚えのある……デビュタントでも、そして最初に参加した夜会でも、唯一目が合った四人組。
以前
それを気に
遠巻きにしているものの、話し掛ける勇気のある御令嬢はいないようだ。
たまにミリエッタを見て話をしている時もあり、
今日は任務中だろうか、
どの方にお渡ししようかと迷いながら歩みを進めると、四人が四人ともこちらを見ており、
「あ、あの……」
誰に渡すかも決まらないうちに、ミリエッタが四人に向かって声を掛けると、ざわりと会場の空気が
辺りが
断られたらどうしよう。
勇気を出してまた一歩近付くと、いつも睨みつけてくる騎士服の男性が驚いて目を見開いた。
近くで見ると、首を四十五度上に傾けなければ視線が合わないほど大きく、黒曜石のような
なんだか
やっぱり帰ろうかと俯き、
「危ないッ!!」
「!?」
飛び込むように割って入った
――しばしの
包み込むように回された長い
柱にぶつかるはずだった側頭部は厚い
眼前に立つ大きな
……無理な体勢で飛び込んだのだろう。
ミリエッタを抱き込んだ自身の身体を支えるため、柱身に刻まれた
けたらしく、じわりと血が
「きゃあああ! 申し訳ございません!! あ、あああの、ありがとうございます!!」
自分の事を嫌いなはずの彼が助けてくれた事に驚きつつ、距離の近さに
大事な手に
ように、血が滲むその手を大きな身体の後ろにそっと
打った
「あの、こ、これ……」
ミリエッタはハッと我に返り、少し身体を
恐る恐る差し出されたハンカチに、男性は驚いたかのように
「ももも申し訳ございません! さ、差し上げます、ので、ふ、ふ、
緊張のあまりそれ以上何も言えずに固まっていると、男性は目にも留まらぬ速さで動き、
次の瞬間怪我をしていないもう片方の手で、ミリエッタの手ごとガシリとハンカチを
ひぃぃぃ、ち、近い! 近い!!
どうしよう、もしかして
ミリエッタの手を握り、ぐいぐいと無言で
何が何やら分からないくらいに混乱しつつ、一刻も早くこの場から
「あッ、ありがとうございましたッ! 特に深い意味はないので、その、受け取っていただけただけで光栄です!」
こうなったら逃げるに限ると、ミリエッタは摑まれたその手を勢いよくシュッと引き、礼を述べるなり身を
よ、よし、渡せた。
大丈夫、私はやり
そう自分に言い聞かせながら、
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