第37話 ポイント3へ
「ポイント2、対象者の姿なしっス」
「じゃあ、このまま反対方向に全員で移動、ポイント3と4のチェックに向かおう」
『西陶地下道
特に、〝プロフェッサー〟と長らくこの場所で生活し、共に仕事をしてきた古川さんならば、フロア6であろうとある程度は把握しているはずだ。
そういった場所にいると考えれば、おのずと捜索箇所は決まってくる。
「では、先行警戒に行ってくるっス」
「いや、こっちで移動捜索を行うから、先にポイント4を確認して来てくれないか。ポイント3で落ち合おう」
「了解っす」
俺に頷いて、正雀が
今回は通常の
突然に降って湧いたような話なので、プランすら満足に組んでいない。
だが、正雀であればいくつかの行程を意図的にスキップすることも可能だ。
単独踏破、単独撃破、単独帰還が可能な
その分、危険も増すが……ここは正雀の腕を信じる。
「よし、俺達はこのまま通路を進んでポイント3の小部屋へ向かうぞ」
「ん。気配は、まだない」
目を閉じて深呼吸した十撫が、そう告げる。
彼女の感知能力はさらに磨きがかかっていて、かなり精度が高くなってきた。
「
「そうだな。ありがたいことだが、あんまりいい傾向とも言えない」
フロア6に入ってから、戦闘はたったの二回。
これまで一度もフロア6に潜ったことがない俺が言うのもなんだが、いくら何でも静かすぎると思う。
資料によるとここから
それ故に、学生
だというのに、この遭遇率の低さはどうだろうか?
どう考えても、資料と違い過ぎる。
で、あれば。原因は何か。
おそらく、大学の研究パーティが遭遇したという『ミノタウロス』であろう。
下のフロアからフロア6に上がってきている、と考えるべきだ。
俺達と同じフロアに、得体のしれないヤツがいるというのは、どうも落ち着かない。
「……ッ! 何か、いる」
「方向は?」
「この通路の先、丁字路、右」
目標とするポイント3は逆方向。
しかし、その先は行き止まりの小部屋となっているので……それが魔物ならば、安全確保のために狩っておく必要がある。
「亜希、頼む。引っ張り出すだけでいい」
「おっけー」
俺の言葉に頷いて、バトルアクスを構えた亜希が丁字路に向かって歩いていく。
わざと足音を出しながら。
そんな亜希の背中を見つつ、俺は背中の大型クロスボウをしゃがみ撃ちの姿勢で構えた。ずしりとくるが、バランスはいい。
スリングショットを構えた十撫と、手銃のポーズで魔石を握り締めるジェニファーが両隣に並んで、通路の先を見据える。
やがて、亜希が丁字路で何かにバトルアクスを振り下ろして……こちらに駆け戻ってきた。
「ヘンなのがいるッ!」
亜希の背後を追ってくるのは、超大型の甲虫。
後ろ足が独特な形をしていて、それがガサゴソと不快な音をたてながらこちらに向かってきていた。
「右ステップ!」
「おっけー!」
俺の言葉に、亜希が走りながら壁ギリギリまで跳ぶ。
そのタイミングを見計らって、俺は大型クロスボウから特別製の太矢を発射した。
同時に、十撫とジェニファーもそれぞれの得物から一撃を放つ。
「ギキィ……!」
鈍い貫通音と共に、甲虫が反転するようにしてひっくり返る。
俺は発射の反動で少し、たたらを踏んでしまった。
「わお、破壊力ばつ牛ンでござるなー?」
「ばつぐん、な。強力だが、俺が使うにはちょっと取り回しが良くないな……」
『ゲートウォール社』で発売される武器シリーズ。
一つは基本装備として携帯している
【
取り回しが些か重すぎるのと、反動が大きいのが問題点だな。
「ヘンな、虫」
「スカラベだ。わりとどこにでもいるヤツだけど、こんなでかいのは初めてかも知れない」
「えーっと、フンコロガシ?」
「転がして固めるのは、人間や魔物の肉だけどな」
たくさんの人間、たくさんの魔物がいれば、ごみであふれてしまうのが普通であるが……それを収集して利用する
目の前で死後硬直を始める甲虫──『スカラベ』もその一つだ。
こいつは、
それは他の
そう、以前に遭遇した『
あれの発生は、コイツが原因だと言われている。
「……うげ、最悪」
説明を聞いた亜希が、あからさまに顔をしかめる。
「hurry up! 急ぐでござるよ!」
「ああ。ポイント3へ向かおう」
俺とジェニファーの様子に、首を傾げる亜希。
十撫にしても、少し戸惑っているようだ。
「アレがそばにいるってことは、死体か、死体になりそうな人間がいる可能性が高いってことだ」
俺の説明にピンときたらしい太刀守姉妹が、少し顔を険しくして丁字路の先に視線を向ける。
この先──ポイント3に、目指すべき人がいるかもしれないのだ。
「急ぐぞ。でも、慎重にな!」
そう告げて俺は、動かなくなった『スカラベ』の隣を駆け足で抜けた。
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