第35話 折り返し野営地
ジェニファー・ウィルハウスは、特別な人間である。
それは、俺だけでなく、世界中の人間がそう認識しているはずだ。
何故なら彼女は、
「finish!」
大型の虫にしか見えない
それを確認して、ジェニファーが小さく息を吐きだした。
「さすが、〝魔弾の射手〟だな……!」
「ほめてつかわせ?」
俺の称賛に顔をほころばせるジェニファー。
その手には、小さな魔石がいくつか握られていた。
新エネルギーであるマナを生み出す、特殊な媒体であるが……ジェニファーにとってのそれは、武器でもある。
魔石から直接マナを引き出し、弾丸の如く高速で発射することができるのが、彼女の
その威力は大型拳銃と同程度とも言われ、銃火器が使用できない
魔石を消耗するのは些か、懐に痛いが……それでも、彼女のこの能力は武器としてかなり有能だ。
「魔石、回収、おけー。ジェニー、はい」
「thank you!」
十撫から受け取った魔石を、腰のポーチに押し込むジェニファー。
まだ、残弾の事を気にする必要はなさそうだ。
「これで、フロア4も問題なく突破だな」
「そうっスね。スムーズすぎて撮れ高のが心配っスよ」
「本番はフロア6だから、問題ないさ」
どこか和やかな空気感で、薄暗い地下道の中を進んでいく。
俺にしてみれば、フロア5まで庭みたいなものなので、多少は気が楽という部分もあるのだが。
なにせ、『
特別な油の燭台が備えられていて薄暗くはあるが視界も問題ないし、地図もあるので迷うことはない。
特にフロア4とフロア5はサイドルートという、安全性の高い裏道を使うので……先ほどのような
「こういう
「すまないな。亜希と十撫は、ちょっとデビューが特殊だったものな」
「裕太のせいでしょ、まったく」
こうして騒ぐのも本来はよくないのだが、今のところはいい。
まだ、ここらは
もちろん、警戒は怠らないが。
階段を降り、
正雀の先行警戒は見事なもので、俺達はほとんど消耗することもなく、ペースを守った状態で『
その光景を見た仲間たちが、目を丸くして驚く。
「え、すごい!
「Fantastic! ニホンジン、『ヤバイ』でござるな?」
「噂には聞いてたッスけど、いやー、感動っスね」
「驚いた、かも……!」
俺は浮遊する【ゴプロ君】に振り返り、口を開く。
「仲間たちが驚いていますが、ここが『西陶』名物の、地下大規模キャンプ……通称、『
俺の説明に、【ゴプロ君】がくるりと回って『
日本全国どころか、全世界どこに行ってもこのような光景を見ることはできないだろう。
小ぶりな野球場くらいある空洞に、小さな町のようなものが作られているなんて、俺だって実際に訪れるまでは、冗談か何かだろうと思っていた。
「宿泊施設、コンビニエンスストア、入浴施設、医務室、ギアショップ、換金所が設けられていて、学生や研究者の中間拠点として機能しています」
「ね、待って……!? ここ、どうして電気がついてんの?」
説明する俺を、亜希が揺さぶる。
配信映えするいい質問だ。
「それは、ここがマナの利用研究拠点でもあるからだ。電気じゃなくて、マナの光だよ」
「電気にしか見えないけど?」
「電気の代替エネルギーとしても使えるって事。ここにはマナライトにマナエアコン、マナ冷蔵庫もあれば、マナ洗濯機だってあるぞ」
「何でもありじゃない……!」
唖然とする亜希に俺は笑って返す。実にいい反応だ。
この『
「気に入ってくれたようで何よりだよ」
「〝プロフェッサー〟……!」
「相沢君は二ヵ月ぶりかな? かわいいお嬢さんばかり連れて、ずいぶんと調子に乗っているようだ」
サラサラの黒髪ロングに、フチなし眼鏡。
ちょっとくたびれた白衣。
そして、巨乳。
「この人は、どなた?」
「ここの責任者。通称〝プロフェッサー〟って呼ばれてる変人だよ」
「おっと、相沢君。キミ、言い過ぎじゃないかな?」
「貴方を喜ばせようとしてるだけですよ」
「まあ、嬉しいけどね」
俺の肩を軽く叩く〝プロフェッサー〟。
藤一郎が兄貴分なら、彼女は姐御みたいなものか。
「御手杵ゼミを抜けたと聞いたよ? うちの研究室に来ないか」
「あいにくですけど、俺、社長やってるんですよ」
「じゃあ、ダメだな。はぁ、世間から遅れてる。やっぱり何とか地上波を受信できるマナテレビを作らないとだね」
軽い様子の俺と〝プロフェッサー〟に、仲間たちが唖然としている。
まぁ、それもそうか。
というか、本来は俺も軽い口をきいていい相手ではない。
〝プロフェッサー〟こと
「もしかして、下に行くつもりだったりする?」
「ここで一泊して、フロア8を目指す予定です」
「おすすめしないなぁ」
頭をかきながら、〝プロフェッサー〟がため息を吐く。
「何かあったんですか?」
「立ち話もなんだ。お茶にしようぜ、相沢君……と、ハーレムの諸君」
そう言って、すたすたと歩きだす〝プロフェッサー〟。
顔を見合わせながらも、俺達はその背中を追って歩き出した。
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