第31話 帰り道の再会
「みんな、今日はお疲れ様。本格的な
西陶大学のはずれ。
学生
時間的には大してたっていないのにそう感じるのも妙な話だが。
「ユウタ、ギアの構成を相談したいでござるが」
「ああ、帰ったら時間を作るよ」
ジェニファーに頷き答えながら、駐車場に向かって歩く。
彼女の戦闘スタイルは少しばかり特異だし、ギアの調整はやはり必要だ。
確認のための事前
「ボクはこのボディスーツ、あんまり合わないみたいっス」
「そうなのか?」
「全身ぴっちりというのは、なかなかフェチでいいんスけどねぇ」
なんだか、とんでもないことを言っているが……彼女の手腕は、今日一日で充分に理解できた。
さすがというかなんというか、さすがは『設計上は
こちらで止めなければ、フロア3でも戦闘試験ができないところだった。
「どう合わないんだ?」
「肌が出ないので、肌感というか空気感というか……そういうものの感知が鈍ってるっス」
「そういうものなのか?」
「全身素っ裸が一番高性能なのが忍者ってもんなんスよ?」
知らなかった。
日本が誇る忍者が、そういう感じだなんて。
「でも、二人ともすごかったわよね! 自分が素人だって、思い知っちゃったわ」
「アキ! そんなことはないでござるよ」
「そうっスよ! 重装甲、高火力な味方がいるってのは、安心感が段違いなんスから」
落ち込む亜希を、ジェニファーと正雀が二人で励ます光景に、少しばかり胸が熱くなる。
やはり、パーティはこうでなくては。
「ね、裕太」
そんな中、俺の手を軽くつまむようにして引いたのは、十撫だった。
「どうした?」
「ジェニファーの、ギア調整が終わって、からでいいから、わたしに時間を、作ってくれる?」
「もちろん。何かあったか?」
「後で、話す」
その表情に真剣な何かが隠れている様で、少し心配になる。
仲間が増えたことで、もしかするとストレスがかかったのかもしれない。
「オーケー。どこにする?」
「裕太の部屋、行って、いい?」
「わかった。時間が空いたら連絡を入れるよ」
「ん」
うなずく十撫の手を、軽く握り返してそのまま歩く。
そうして駐車場に向かう俺達を、誰かの声が止めた。
「相沢君!」
「……潮音さん?」
久しぶりに見る元バディの顔に、俺は少しばかり気持ちを軽くする。
大学には来たものの、キャンパスに立ち寄るつもりがなかったので、顔を合わせることはないと思っていたのだ。
駆け寄ってきて、肩で息をする潮音さん。
その表情は、どこか不穏な様子だ。
「久しぶり、潮音さん。元気してた?」
俺の当たり障りのない挨拶に帰ってきたのは、どこか切羽詰まったような質問だった。
「相沢君……復学、しないって本当なのですか?」
「えっと、誰から?」
「答えてください」
なんだかのっぴきならない空気に、俺は視線で仲間たちに促す。
静かにうなずいた仲間たちが車へと戻っていくのを軽く確認してから、俺は潮音さんに向き直った。
「事実だよ。まだ、正式には伝えていないけど……冤罪事件に関する訴訟が落ち着いたら、別な大学に行こうと思っている」
「どうしてですか? 一緒に、また一緒に
肩を震わせて、小さくぐずる潮音さんに少しばかり焦る。
こんな風に感情を露にする彼女は、あまり見たことが無い。
「今の俺の居場所は、ここじゃないから……かな。教授も、大学も、まるで信用できない。教授は俺を停学に追い込んだ証拠を、見てもいなかったんだ。大学側にしても、それを調べもしなかった」
「……!」
「なのに、俺から俺の夢を取り上げようとしたんだ。はっきり言って、憎んでるよ」
あえてこれまで言葉にしてこなかったことを、口にする。
この感情があるからこそ、俺は大学側の謝罪を受け入れなかったし、現在も係争の準備を進めている。
何もかもをはっきりさせないと、気が済まない。
「わたくしは、相沢君のバディで、いたかったんです……。あなたしか、背中を預けられないんです。もう、
「潮音さん……」
涙を流しながら、ぺたりと座り込む潮音さん。
どうすればいいかわからず立ち尽くしていると、後ろから足音。
振り向くと、十撫がこちらに歩いてきていた。
「裕太さん、一緒に来て、もらお?」
「え」
「一人に、しちゃダメ、だと思う、から」
十撫がそう言いつつ、しゃがみ込んで潮音さんの肩に触れる。
「わたし、十撫。あなたは?」
「……潮音 恵子」
「ん。じゃあ、潮音さん。一緒に、いこ?」
十撫の言葉に小さくうなずいた潮音さんが、静かに立ち上がる。
そして、そのまま十撫に手を引かれて車に歩いていった。
「どうしたんだろう、潮音さん」
彼女にしては、少しばかり感情的だったように見える。
俺がいない間に、この大学で何かあったのだろうか?
「裕太さん、早く」
「あ、ああ」
俺を呼ぶ十撫に頷いて、二人の後を追う。
何にせよ、きちんと話を聞く必要がある。
彼女の元バディとして、寄り添えることも何かあるはずだ。
そう考えた俺は、運転席に乗り込んでエンジンをかけた。
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