第17話 小悪魔な十撫
最初の配信が行われてから、一週間。
今回の目的地は、少しばかり遠い。
『ピルグリム』の社屋から車で二時間ほど移動して、ようやく俺達は目的地へとたどり着いていた。
「はー、ついたー……! 裕太、運転お疲れ様」
「ああ。少しだけ休憩させてもらうから、その間に荷物を降ろしておいてくれ」
「おっけー! いこ、十撫」
「ん」
二人がバックドアを開けて、ひとまとめにされた荷物を確認し始める。
『ピルグリムB1』は社宅で装着してきたが、プロテクターは現地で装着する手はずになっている。
これも、今回は動画を撮影しておく予定だ。
まぁ、うら若き女性二人を矢面に出すわけにはいかないので、モデルは俺だが。
今回、『ピルグリムB1』の上から通常の洋服を纏ってもらって移動したが、やはりこの
あまりにボディラインが出過ぎる。
上からプロテクターを装着する以上、体の動きを阻害しないようにデザインされているのだろうが、女性には不評かもしれないな。
……プロテクターの上から羽織ったりできるものを考えるか、そもそも本当に防御性能の高いアンダーウェアとして売り出した方がいいかもしれない。
洋服を羽織っても違和感がないのだから、『ピルグリムB1』の上から従来のギアを装備したって問題はないだろう。
「裕太さん、荷物の準備、おーけー、です」
「あ、ああ。ありがとう」
「また、考え事?」
「いや、大したことじゃないんだけどさ……それ、十撫はどう思う」
指さした先が悪かったかもしれない、予想外の答えが返ってきた。
「もむ?」
「……ッ!? 違う、そうじゃない! 『ピルグリムB1』だよ。俺はあんまり気にしないけど、女の子的にはその……恥ずかしかったりしないのかなってさ」
「えと、ちょっと、だけ? でも、着心地は、いい。丈夫だし、軽い。拡張性もある」
十撫のレポートは、藤一郎が想定していた通りだ。
長時間の探索でも不快感が出ないようにも配慮されているし、個人に合わせてプロテクターや付随武装を変更できるので、ギア選択の無理が出にくい。
「確かに、嫌がる女の子は、いるかも、ね?」
「やっぱりなあ」
「わたしは、だいじょぶ、かな? 元
悪戯っぽく笑って、ポーズをとる十撫。
豊満、という言葉がふさわしい彼女のボディラインをうっかり直視してしまって、数秒見入ってから……ゆっくりと俺は視線を逸らした。
「あれ、
「からかうのはよしてくれ……慣れてないんだ」
目を逸らしたままの俺に、十撫が小さく噴き出すように笑う。
笑わなくたっていいだろうに。そういうことに慣れちゃいないんだ、俺は。
「お姉ちゃんは、意外とシャイだから、気にしてる、かも? フォロー、してあげて、ね?」
「亜希だけじゃないさ。君のフォローも俺の仕事だよ」
「仕事だけ?」
上目がちに俺の顔を覗き込む十撫に、思わずどきりとさせられる。
せっかく視線を逸らしたというのに、これでは台無しだ。
「仕事以外でも構わないさ。仲間として、先輩
「あ、ヘタれた。でも、裕太さんの、そういうところ、可愛くて、好きかも?」
「──……」
くすくすと笑う十撫に、固まってしまう。
儚げな見た目とは裏腹に、十撫という女の子は随分と悪戯好きらしい。
「からかうなって、もう」
「ふふ。ごめん、ね?」
「おーい、二人とも? 何してんのよー?」
いいタイミングで亜希が呼んでくれた。
おかげで、この落ち着かない雰囲気から抜け出せそうだ。
「いこ、裕太さん」
「あ、ああ」
そう言って、十撫は小走りで駆けていく。
その後ろ姿に、俺はため息を小さく吐き出した。
小さい新興会社の、雇われ社長だもの。
威厳とか、上下関係とかをどうこうってつもりは全くないのだが、こうも年下の女の子にからかわれてしまっては、立つ瀬がない。
「裕太―? 装備とバディチェック、やるよー?」
亜希の呼び声に気持ちを切り替えて、俺は「すぐ行く」と返事をした。
◆
「8時51分、現着。バディチェック、よし」
「【ゴプロ君】、準備、おけ」
自衛隊の監視哨前で、確認作業を行う。
『ピルグリム』第二回目の
門の隙間からは、特徴的な大きな鳥居が見え隠れしている。
「『ピルグリム』代表、相沢裕太です」
「第三監視部隊所属、村井です。通行確認を実施させていただきます」
はきはきとした様子の自衛官が、俺の差し出した書類を受け取りペンで確認を入れていく。
ここは〝
これまで表に出てこなかった日本の
であれば、些かあからさまかもしれないが、
それに、ここは閉鎖空間ではないオープンフィールド型の
準
「確認、よし。お待たせいたしました、通行を許可いたします」
「ありがとうございます。何か、変わったことは?」
「
村井自衛官の苦笑に、俺も苦笑を返す。
そんな事を言うなんて、どこのゼミのパーティだろう。
「今回も配信を楽しみにしていますよ、〝Mr.ピルグリム〟」
「〝Mr.ピルグリム〟?」
「おっと、本人がご存じないとは。界隈で、そう呼ばれているみたいですよ?」
「知りませんでした」
そう返事をして振り返ると、太刀守姉妹が何やらニヤついていた。
この二人は既に知っていたらしい。
ああ、まったく。みんなして俺をからかって遊んでいるな?
「いずれにせよ、ご安全に」
「はい、それでは。また、帰還時に」
お互いに小さく会釈をしあって、俺はゆっくりと開く頑丈な門扉に向き直った。
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