第8話 出番なしは安全ということ。
「う、ヘンなの。気持ち悪い」
十撫が素直な感想を漏らしたので、思わず俺は苦笑してしまう。
俺が初めてこいつを見た時も、同じ感想だったから。
「なによ! 怖くなんてないんだからね!」
初めて
そんなことを考えつつ、俺は背中に背負っていた大型の
音と振動、それに熱を感知して生物を襲う
接近戦よりも、消音矢で先制した方が安全に処理できる。
「キャンッ!?」
眉間、かどうかはわからないが、頭部の中央に太矢を受けた
このくらいで死なないのが
逃げることも体勢を立て直すこともしない。
「……ふんッ」
全体重をかけて
二度目の射撃を貫通気味に受けた
「おわり、かな?」
ひょこっと顔をのぞかせる十撫に、俺は頷く。
「
「ふん、ふん。さすが、裕太、だね?」
大した知識でもないが、
一般に目にする動植物とはまるで違う姿をしている。
「あたしの出番、なかったんですけど?」
「初挑戦の準探索者が張り切りすぎるんじゃないよ」
そう苦笑して、俺は【ゴプロ君】に視線を向ける。
「この二人は、研修中の準
軽口を叩きながら、軽く【ゴプロ君】に向かって笑う。
一応、海外の
配信である以上、ある程度のエンタメも交えていくものだとは、わかっているのだが。
「いきなり第二種禁止区域に突入とは思わなかったけどね!」
「悪かったよ」
そんなやりとりをしつつ、
さすがにちょっとグロいので、撮影もしないし姉妹にもやらせはしないが……
そう、魔石の回収だ。
「これが、魔石です。きっと、研磨されたモノを見かけたという人もいるでしょう」
取り出した小指の先ほどの魔石をレンズに向けてみせる。
いびつな形をした赤い真珠とでも言うべきだろうか。
ほのかな光沢を放つこの結晶体が、魔石だ。
「それでは、進行再開。奥に進んでいきます。行こうか、二人とも」
「おっけー!」
「ん。りょ」
◆
「これが、
「なんだか、気味悪いわね」
崩れ落ちた工場のがれきにぽっかりと空いた空間を見て、十撫と亜希が緊張した様子を見せる。
これくらいでちょうどいい。
甘く見たり、調子にのったりすれば命にかかわることがあるから。
「中に入ろう。昼間なら灯りはいらないしね」
「こんなに暗いのに!?」
驚く亜希に、俺は軽く笑って返す。
「入ってみればわかるよ。ここからは
「今度こそ、あたしの出番ね!」
「がんばり、ます……!」
もう少し怯むかと思ったが、二人とも気合十分なようだ。
俺達のような
それ故に、
それに、
場合によっては、若いうちから多くの報酬を得ることだってできるこの職業は、ヒロイズムと一攫千金の夢を孕んだ、若者に人気の就職先でもあるのだ。
……資格の取得条件は、少し厳しいけど。
「右手沿いに進んでいって、通称『第三倉庫』と呼ばれている場所を目指す。行こう」
「了解!」
「了解、です」
新人二人を背後に庇いながら、俺は『放出工場跡
「わ、なに、これ……!」
「どうなってんの!?」
驚くのも無理はない。
俺だって、初めて入ったときは驚いたものだ。
「工場の、中……みたい」
「正解だ、十撫。この
切れたワイヤーがぶら下がる滑車、フックがついたクレーン、車輪が外れた台車。
どれもこれも錆びて朽ちてはいるが、内部の様相はまさに廃工場と言った風情だ。
きっと、通路と部屋で構成された
「でも、壊れた天井から光がさしてるから明るいわね」
「ああ、日が落ちる前に仕事を終わらせよう」
二人に頷いて、俺は進行方向を指で示した。
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