第3話 パニック

 先輩を引っ張って歩く私。

 特に先輩は反発することなく引っ張られている。

 今のところ先輩の手が急激に冷たくなるということもない。

 というかむしろあったかい。これは――ずっと握っていたくなる――って、ちゃう!

 今は先輩がいきなりおかしなことを言い出したから――えっと、その、そう!現状確認をするため――いや、違ったような――あっ、先輩が熱あるかも!で、私は先輩が倒れる前に先輩を家まで引っ張って行こうとしているところだった。


「えっと――あゆみ?その――」

「はい。黙る」

「いや――」

「病人は大人しく引っ張られてください。ガチで先輩倒れたら私では運べないんですから。誰かの迷惑になりますから家までは頑張ってください」

「――」


 ちょくちょく後ろから先輩が何か言おうとしているが。

 でも私はそれを聞かない。

 なぜなら――私の方が熱が出るんじゃないか――いや、もう出ているかもしれないくらい顔が熱いから。

 これは絶対先輩に顔を見られてはいけないパターン。薄暗くなってきていてよかった。

 いや、だってさ。普段大人しい。あまり物事をはっきり言わないような先輩が『一緒に暮そうか』だって?

 いやいや、先輩は未だになんやかんやで私の親とも会ってないというか――まあ私もめっちゃ紹介したい――という感じではないけど。あれ?私が『そんなのいいから』って言ったんだっけ?うーん。忘れた。

 ちなみに先輩の方は――あれ?そういや家族の話聞いたこと――いや、普段先輩と話している時ってどうでもいいことばかりだらだら話したりしているからね。まあそれがまったりでいいんだけど。

 というか、今の私は親元を離れて一人暮らし満喫中ー(この大学通う理由が先輩を追いかけて――ということは誰も知らない事。そう知らない事である。とりあえず1人暮らししたい!という願いを言って無理矢理――ってか大学はそこそこレベルの高いところだから即OK出たけどー。ってかさ。ちょっと愚痴るとというか。先輩って絵は良く描いているけど。勉強している雰囲気ないんだよね。なのに――さらっと大学合格したとか言い出したからね。って、そういや大学のことも推薦使ったの?とか聞いたことないかも……。だって、先輩がこの大学受かったって聞いた時の私の脳内と言えば――って、めっちゃ語っているけど、みんな聞いて。今は余計な事話してないと私が思い出して噴火するかもだから。顔真っ赤とか先輩に言われたくないし。とにかく。先輩が受かったと聞いた時の私は――『はい!?なんで先輩がそのレベルの大学サラッと合格してるの!?先輩の普段の雰囲気的に私の学力でも余裕なところ――とかとか思っていて。できれば大学も一緒だと楽しいだろうな――とかとか馬鹿なことを考えていた私。目覚めたよ。えっ、これガチで私勉強しないとダメじゃん。もう高校でさようならになっちゃう可能性あるじゃん。ってかその大学ってことは先輩下宿するよね?頻繁に会えなくなるじゃん!えっ!ちょっといろいろ待てー!って、そんな事思っているより。これからは先輩に勉強ヘルプを――』とかとかそれはそれは猛勉強開始のゴングが鳴ったからね。うんうん。思い出すと――あの時の私頑張ったよ。なんか先輩と離れたくないとか思っちゃって。って――今思うと私なんでこんなに先輩と一緒に居ようと――って、私がベタ惚れ――って、そんなこと考えたらまた顔真っ赤にー!違う違う。目立たない先輩のサポート――って言うのもおかしいか。私がストーカーレベルって。悪化してどうする私。1回落ち着こう。ふーふー……。ダメだ。落ち着かん。って、先輩の家見えてきちゃったよ)と、まあなんやかんやとありますが。私1人暮らし中って、いろいろ思い出したらもう頭の中ぐちゃぐちゃー。何を言おうとしていたんだっけ?先輩の――事?あれ?もうわかんないや。とにかく私も1人暮らし。よくよく先輩のところにも住み着いています。

 って、住み着いているのはおかしい――って、あー。もう先輩のせいで私がおかしくなってるじゃん。何話してるの私。早く先輩を家に運ぼう。とりあえずそれからだ。


「――一緒に暮そうとかサラッと言うことじゃないでしょ」


 私はぶつぶつつぶやきつつ。先輩の住んでいるアパートの敷地内へ。そしてそのまま先輩の家の前まで先輩を引っ張り移動したのだった。

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