異世界流刑少女刑 外伝 エリス式移動住居の内見

土田一八

第1話 ユリスのギミックハウス

 私はマケニアからの帰途、夜営の準備をしながら、ある事を思いついた。


 家を造ろう。


 だって、テントって寒いんだもん!


 マケニアへの往路。雪が積もった山脈の山中では、冬用テントと、もこもこ毛皮装備だけでは寒さはしのけず、かといってテントの中で焚火する訳にもいかず、毛布をユニコーンのペレキスの身体にもかけて、その体温で一緒に寝ないと凍死しそうだったからねぇ…。


 家の材料はどうしようか…。木?


 うーん…。木だと、切り倒して製材するだけで大変そうだ。私は角槍のテストの事を思い出した。あれは、修行の一環としてだけど、今回は修行ではない。工芸の加護は火、水、土の機能を持っている。土壁を造れば確かに家のようなモノにはなるだろうけど…。

「主。腹減った」

「うん。ご飯にしようね」

 ペレキスに晩御飯を催促されてしまったので、ご飯の用意をする。


 その晩。私はペレキスと一緒に毛布にくるまって寝ていた。



 わーい!お城ー!


 石造りの立派なお城がそびえ立っている。高い城壁、頑丈そうな城門。堀も跳ね橋も備わっている。城壁には所々に丸い塔が建てられ、大砲が備え付けられている。お城本体は、尖塔が四隅と中央にそびえ立つ。正面玄関から中に入ると、大広間に飾られている荘厳なタペストリーや彫像が迎えてくれる。床は磨き込まれた石材が敷き詰められ、その上をふかふかの絨毯がアクセントの如く順路を示す。要所要所には絵画か飾られて威勢を示す。寝室には天蓋付きの大きなふかふかベッド。金細工が施されたドレッサー。白い暖炉が主人を温める。大きな窓にはワインレッドのカーテン。それから白い大きなタンスに青い応接セット、読書机……。

 広いダイニングルームに行けば、大理石のダイニングテーブルがデンと置かれ、金銀の食器に豪勢な料理が並べられる……。

 お風呂はジャグシー風呂。これまた広く、ホテルの大浴場の比ではない。


 でも、誰がこんな立派なお城を造ったんだろう?岩はどこから調達?


 うーん………。



 今度は城館かな?規模はお城に比べれば随分と小規模だ。しかし、中の調度品はお城の物と遜色はない。スペースがそれぞれ切り詰められたものの、それでも十分すぎる空間が維持され続けている。基本的にはお城の内部とそう変わらない。

 優雅だなぁ…。


 ん?何だかいっぱい人がやって来た。長いものを手に持って何かを叫んでいる。


 年貢をまけろー!


 パンよこせー‼


 ええっ?これって一揆じゃん⁉


 簡単なフェンスはあっという間に引き倒され、群衆は玄関すらも突破した…。


 防御が貧弱過ぎる。

 それに、豪華な生活が誰かの犠牲で成り立っているというのは如何なものだろうか。



 う~ん……。



 あれっ?今度は要塞?いや、砦かな。


 こじんまりとした三層建ての頑丈そうな石造りの砦だ。弾薬庫、食糧庫も井戸も内部にある。屋上には昇降式の砲台となっていて大砲が設置されている。内部の部屋は装飾品などは全くと言っていい程省略されている質素な造りだった。士官室でこうなのだから兵卒の部屋は二段ベッドで数人で士官室と同程度のスペースを使っている。無駄を省く質実剛健というべきつつましさが好ましい。


 でも、砦だから敵が通りそうなところにあるのが普通なので、いの一番に狙われる…。


 はぁ…ダメじゃん。



 う~ん。


 う~ん…。



 今度は石造りの小さな家だった。土台は地形に合わせて少々低めに作られている。屋根はドーム型。本当に石だけを積み上げている。でも、大量の石を調達できても、これを積み上げたり収納するの?



 うーん…。



 結局のところ、土壁の家となった。材料は現地の土を使えばいいので持ち運びをする必要はない。解体するのも楽だ。


 あっ!家具とかどうしよう…?その時、閃いた。

 ミニチュアを造ればいい。というより実物をミニチュアにすればいいのだ。


 ん?待って。アレ…?


「主、主」

 私はペレキスに起こされた。


「…夢だったの?」

「主。朝だぞ。腹減った」

 ペレキスは平常運転だなぁ。家は、ペレキスの事も考えなくてはいけない。そういえば、夢にペレキスはちっとも出て来なかった。

「うん…じゃあ、ご飯を用意しようね」

「狼の肉がいい!」

「よしよし」


「そういえば、主。昨夜はうなされてたぞ?」

 ペレキスは真顔で言った。

「うんとねぇ…家の夢を見てたの」

「家?」

「うん」


 私は、ペレキスに家の事を話してみる。


「うむ…確かにテントだと、主は寒そうにしているものな」

「そうなんだよぉ~。ペレキスは寒さに強そうだけど、私は夏生まれだからあまり寒さに強くないみたいなんだぁ」

「それで、家か」

「テントだと暖を取るのにかなりの配慮と装備が必要だし、今は、ほぼ事前に作ったものを食べているけれど、ご飯も外で作らないといけないから」

「確かに、テントで焚火はできんな」

「でも、どんなタイプの家にするかでずっと夢の中で悩まされてて…」

「そんな夢を見ていたのか?」

「うん」

「ふむ」

「建物の規模や大きさは、お城から始まって城館、砦、石造りのドーム状の家、土壁で作った家。だんだん小さくなっていくんだけど、最後はミニチュアサイズに…。でも、違和感ばっかりだし、その夢にはペレキスが一回も出て来なかったんだ」

 ペレキスは耳を動かす事無く聞いている。

「だから、そんなんじゃ、ダメみたいなんだよねぇ…」

「ふむ」

「ペレキスと一緒に住める家でかつ、火が使えて移動可能な家というものにしないといけないからねぇ」

「ふむ」


 私はテントを畳んでマギアボックスに収納し、ペレキスに跨って出発する。ここからは寒さの厳しい山脈越えとなる。


「主。今日はこの辺で夜営しよう」

「うん。そうだね。もうじき暗くなるね」

 山脈は相変わらず積雪量が凄い。かまくらを作ってその中にテントを立てる事にしよう。ちょうど森の中に平らな場所を見つけたのでそこに洞穴を掘ってかまくらの代わりにしテントを立てる。

「雪の中にテントを立てるのか?」

「悪魔退治の時に、祠の中にテントを立てたでしょ。その応用」

「なるほど」

 空気穴をいくつか開ける。それからテントを立てる。火はランタン程度しか使えないが、寒さはしのげる。

「主。腹減った」

 ペレキスは夕食を催促する。

「うん。夕食の準備をするねぇ」

 事前に作っておいた温かい料理で夕食を済ます。夜はペレキスと一緒に毛布にくるまって寝る。朝食も事前に作っておいた温かい料理で済ませる。マギアボックスにテントを収納する。外に出て洞穴を崩して埋め戻す。ペレキスに跨り出発した。


 空を飛んでいる時、私はふと、考えた。マギアボックスは魔法の箱という意味だが目に見える訳ではない。収納スペースもほぼ無限である。割と大きなものや重いモノも普通に取り扱える。もし、マギアボックスが目に見えるものだったらどうなんだろう?例えば木の箱とか。

 木の箱を家の模型に置き換える。

 それなら木とか土にこだわる必要もないかなぁ?


 私はもう少し構想を練ってみる事にする。


 ふっふっふっ。


 今はオリュポンスに着くのが待ち遠しい。



 アテナの神殿に戻った翌日。異世界に旅立つまで残り七日。今日は糸を紡ぎ、糸を染め乾かせて、布を織って衣服を作る。加護の力で道具類を動かすので作業の同時進行をする。洋服だけでなく綿入れふとんや毛布も作る。材料や道具はアテナが準備してくれていた。こういうところは実にそつがない。


 次の日は鉄器作りに充てたので木工品はその翌日になった。材料はアテナに頼んで集めてあるから作業に没頭する。それから炉や家具を作ったりして家づくりにも着手する。

「何を作っているんだ?」

 模型サイズの家具を見てアテナは訝しがるが、まだ、秘密だよん。



 完成したのは旅立つ前日だった。


「ん?宝箱か?」

 アテナ達は不思議そうな顔だ。私は完成させたちいさな宝箱を両手で抱えて神殿の外の広い場所に行く。


「宝箱よ、開け!」


 平らな地面に置いて私が命令すると、宝箱は大きくなって家の形になった。


「おおっ」

「デカくなった」

「こういう仕掛けだったのね」

 アテナ、ペレキス、ニケはそれぞれの感想を口にする。

「どうぞ、中に入って」


 今回は、時間が限られていたので一階と屋根裏部屋だけにしたけれど、余裕ができたらもっと大きくしっかりしたモノを作るつもりだ。


 一階はリビング、玄関、水回りとキッチン、工房、倉庫で、寝室などは屋根裏部屋に設置した。工房や倉庫は後で独立できるように、その部分だけ別の作りにした。家具類も簡単に作ったモノだけだが、一通りに揃えた。

 玄関と勝手口に敷いてあるマットには浄化機能を仕込んである。土足でもたちまち清潔になる。リビングはまだ未完成なので省略する。暖炉とキッチンは力作だ。この部分は火を直接扱う為、工房と倉庫同様別口になるように工夫している。水についても工夫した。この部分はちょっと省略。


 次は階段を上がって屋根裏部屋だ。

「この寝床はいいな」

 ペレキスも喜んでくれた。脚を折り曲げなくても休めるようにクッションを置いて高く作った。もちろん普通の寝床にもなるようにギミックを設けてある。なお、ペレキスの部屋はドアがない。

 私の部屋は非公開。乙女の部屋だもんねーっ。



 こうして住居問題は一応の完成を見た。


「宝箱よ、閉じろ!」

 住居の内見が終わり、私は宝箱を元の大きさに戻した。私達は神殿に戻る。


「なあ、主」

「なあに?」

「家の名前はあるのか?」

「名前?」

 そんな事はちっとも考えていなかった。

「じゃあ、ギミックハウスはどぉ?」

「うむ。なかなかだと思う」

「そ~お?」

「じゃあ、さしづめ、ユリスのギミックハウスか」

 アテナが勝手に命名してしまった。

「え~?ちょっとぉ!私が言おうと思ってたのに~」

 私はアテナに文句を言った。そういうところはポンコツなんだよねぇ。

 みんなはアハハと爆笑していた。



                              完

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