第6話
そう口にした楓を見て、私は少し呆気に取られる。楓だって十分すごいじゃん。それが私の思いだった。
「どうしてそう思うの?楓だって凄いと思うよ」
「ありがとう、でも私は何するにも不安で心配な気持ちになっちゃうんだよね」
普段活動的な楓がそんなことを思っていたなんて知らなかった。それに、何となく気持ちはわかる気がする。
私は好きだからカメラを構えるけど、いざ将来の事を考えるとカメラ片手に世界を旅するなんてただの夢物語でしかないんじゃないかなって思う。
もちろん現実的ではない事はわかってる、でもそう言う不安じゃなくて、やってやろうって気持ちを自分で否定して自信をなくす事が私も嫌だった。
「私はそれでもいろんな事に挑戦する楓が凄いと思うしかっこいいと思うよ、それに祐美もステージに立つ前とかは不安があるのかもしれないしね」
「たしかに、そうだよね」
そう話しているうちに注文した食べ物がテーブルへと運ばれてくる。一度話が止まり食事を口に運ぶ。
「それにしてもカッコよかったよね」
ちょうど食べ終わろうとする頃に楓が言う。
「本当にカッコよかった、なんか実際に見るといつか武道館とかでライブしてそうなくらい説得力があるよね」
「そうなの!なんかこう春を待つ桜みたいな!絶対に冬を乗り越えて咲いて見せるぞ!みたいな」
また独特な表現だなと楓の言い回しに感じながらも今回はその表現にすごく納得をしてしまった。
「私たちも花咲かせないとだね」
自分へ言い聞かせるように口に出して私たち2人は気付けば、楽しかったと言う思いから私たちもという決意に変わっていた。
お店を出て、駅までは他愛のない話をしながら2人で歩いて帰る。駅でお互い手を振ってそれぞれが別の電車に乗って家路についた。
電車に揺られながら何気なく宇多田ヒカルの曲を再生する。ついさっきのことなのに祐美の歌声がどこか遠くて、目の前で聞く、ライブという空間は一瞬の出来事でだからこそかけがえのない時間なんだと気付かされる。
絶対にまた行こう。そう心に決めて私は最寄駅で電車を降りた。
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