第5話

 なんて言い表すのが良いのかわからないくらいにステージに立つ祐美は輝いてみえた。いつも通りの祐美の無邪気な笑顔がそこにはあるはずなのに、マイクや楽器、スポットライトその全てが祐美のためにあるようで、まるで世界的なミュージシャンのように映った。


 「1.2.1.2.3」

 ドラムの掛け声と共に始まった一曲目は、宇多田ヒカルのカバーだった。


 ドラマやベースの音に合わせて祐美の口が開く。

 「最後のキスはタバコの」

そう歌い出した瞬間に私の目からしずくがこぼれた。別に歌に思い出があるわけじゃないし、失恋したわけでもない。

 ただ、純粋に祐美の口から発せられた歌声が美しくて私の心を震わせた。


 何で一曲目にしんみりした歌なのか、不思議だったけれど、祐美の歌声をみんなに知ってもらうのにこれ以上適した歌はないんじゃないかと思うほどに真っ直ぐ心に届く。


 気が付けば一曲目は終わっていて横に立つ楓が嬉しそうに私の顔を覗き見る。

 「来て良かったね」

 私の言葉を代弁してくれるかのように楓は私にいった。泣き顔を見られたことは少し恥ずかしかったけれど、それ以上に来て良かった、祐美の歌う姿を見れて良かったと言う思いが強かった。


 そこからはあっという間に時間が過ぎた。

まだ自分たちの曲があまりないからカバーが多かったけど、何曲かはオリジナルをやっていて、中には絶対これ祐美が書いたやつだってわかるものもあった。

 

 ずっとしんみりしていくのかと思ったけど曲調も盛り上がるものが多くなって、見たことないくらい飛び切りの笑顔で祐美は歌ってた。

 

 私はお願いされていた通りに持ってきたカメラを構えて祐美が一番笑っている瞬間を写真に収めた。


 楓が撮れた写真を覗き込んで、嬉しそうにまたこっちをみる。

 「あかりもさすがだね」

 何を言ってるのか少し分からなかったけどきっと褒められてる気がして嬉しかった。


 ライブ終わり祐美は打ち上げがあったから、楓と2人で会場を出て、一緒にファミレスへと向かう。


 「私もあれくらい自信持てたらな」

 

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