第4話

 祐美への気持ちを胸にしまって今日も家路に着く。昔はよく祐美のライブに2人で行ったなと祐美のLINEのアイコンを見て懐かしさが込み上げる。

 たった数ヶ月、数年の話なのにまるでずっとずっと昔のことにように感じて、自然と溢れそうになる涙をしまって、誰も見ていないのに平然とした態度を取る。


 そこに映る祐美の姿は、マイクの前に立ちギターを持ちながらとびっきりの笑顔でカメラを見つめていた。たぶん3年くらいの間ずっとこの写真のままだった。


 今も夢を追い続ける祐美と今までは夢を追っていた私とどこで差が開いたんだろう。そう考えながらもライブを見に行った日のことを思い返す。



 「ねえ!あかりは祐美のライブ初めてだよね?」

 「うん、前回行けなかったから今回が初めて」


 「私も今日が2回目だけど前回本当に凄かったんだよ!なんて言うかジャーン!みたいな!」

 「よく分かんないけどすごく楽しみ!」


 本当に楓が何を言ってるのかわからないままライブハウスの中へと足を運ぶ。

 

 楓はたまに何を言ってるのか分からない楓なりの表現がある、でも活動的な人柄にその不思議さも相まって誰からも好かれる人だった。

 

 入ってすぐに思ったのは、想像よりも狭いと言うことだった。ライブと言うくらいだからきっとある程度の大きさの場所なのかと思っていたけれど、実際は違った。


 もう一つ驚いたのはライブ代とは別でドリンク代を払うことで、楓が言うには飲食店という名目で運営しているからとのことだった。

 他のお客さんに混ざりながら飲み物を片手に、見やすそうな場所に立つ。少ししてライブが始まったけど、どこにも祐美の姿はなかった。


 「祐美、いないよ?」

 「まだ出番じゃないんだよ!」

 笑いながら私にライブの流れを説明してくれて理解する。冷静に考えればここに来ている人全員が祐美やバンドメンバーの知り合いとは考えにくかった。


 知らない人たちの知らない歌を聞きながら、この人たち良いなとかこの雰囲気好きだなって何となくな気持ちでライブを見続ける。


 「次、祐美だよ!」

その言葉と同時に目の前にはギターを持って立つ祐美の姿があった。いつもの祐美とは違う、それだけが私にもわかった。



 


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