【KAC20242 参加作品】スケールのデカい香坂家は、娘の為に最高の物件を見付けた
あら フォウ かもんべいべ
第1話
◇
あたし、香坂 凪沙(コウサカ ナギサ)は、東方共栄学園の推薦入試、面接試験を終えて家族と合流してから、ちょっと豪勢な昼食を囲み、団欒の時を楽しんでいた。
面接試験そのものは……予想外のトラブルに見舞われ、思わず母国語の英語で悪態をついてしまい、やらかしてしまったあたしは、きっとこの世の終わりのような顔をしていたのだろう。
しかし、どういうわけか、面接を担当した一人の若い男性教師が、少し日本訛りが強いものの流暢なアメリカ英語で返してきたものだから、トラブルなんてなんのその。
本場流のジョークで流してがらりと空気を変え、面接試験であることを忘れる程の楽しい雑談で、あっという間に時間が過ぎていったのだった。
ジョークの延長線上なのか、その場で合格を言い渡された私は、戸惑いつつも日本訛りの強いアメリカ英語を話す、イナ先生に感謝したのは言うまでもなく、期待に大きな胸を膨らませた。
家族で昼食を囲みながら、面接で起こった出来事の話をすれば、あたしの不安を余所に、もう合格した気分でいるものだから、お気楽というのか、能天気というのか……ともあれ、温かい家族たちにあたしは救われた。
既にあたしが合格したかのような気分そのまま、愛する家族は、越境入学するあたしのために【住宅の内見】を予約したらしく、後日、合格発表を見に行ったその足で、気に入ったら内見後に契約してしまおうと言う話らしい。
家族たちが言うには、デカくてゴツいあたしの体格でも、一人暮らしならばなんら問題ないらしく、程よい広さの間取り、広々としたキッチン、あまり窮屈さを感じないバスルーム、快適なトイレと充実しているとのこと。
ただ、名前だけはどうもぶっ飛んでいるというか、それについてはあとで話そう。
時は流れ、合格発表の日。
大きな掲示板の前に並んだ受験生たちの一団は、高身長(187cm)のあたしからすればなんら影響すらなく、あたしは目を皿のようにして受験番号を探してみれば……見つけた。
あたしの受験番号、0362877(オサルニバナナ)を見つけたことで一安心。
明日には合格通知書も届くだろうし、すぐさま家族たちと合流して喜びを分かち合ったその足で、今度からあたしが住むであろう【住宅の内見】へと向かった。
家族からの事前情報をある程度聞いていたけど、ネーミングセンスがぶっ飛んでいる以外は、快適な一人暮らしを送れることに間違いないらしい。
学校から徒歩15分、近くにスーパーもあるし、駅にも近く、遠出するにも最高だ。
ネーミングセンスだけがぶっ飛んだ、まるでジョークのような点を除いて、むしろ家族たちがあたしにどっきりを仕掛けようとしているのかもしれない、例の物件へ。
不動産屋の社用車に収まりきらないあたしの家族たちは、急遽用意されたであろうハイエースに乗り込み、それでも身長199cmのダディー、179cmのマミー、成長期真っ盛りで185cmの弟のリューキ、そしてあたし(187cm)が入ればちょっと狭い……。
案内してくれる不動産屋の人をビビらせてしまって申し訳ないけれど、あたしらはスケールがデカいだけで、たまに英語混じりで会話する以外は、どこにでもいる日系人だ。
大丈夫、ちゃんと靴は脱ぐから安心してくれよな?
そうしているうちにたどり着いた、あたしにぴったりという物件。
その名も……おいおい、冗談だろ?
確かに家族たちがさ、信じられないかも知れないって言ってたけどさ……『メゾン サルゴ・リラチンパンジー』って、どんだけイカれたネーミングセンスをしているんだよ!?
サル、ゴリラチンパンジ~♪……なんて口ずさんだこと、あったりしない?
英語圏だったら、『Hitler has only got one ball(ヒトラーの〇タマは一つだけ)』と言うのが有名だろう。
もちろんあたしは唖然として、『メゾン サルゴ・リラチンパンジー』の札を眺め続けていれば、段々と笑いが込み上げてくる訳だ。
家族全員、揃って大笑いした後、申し訳なさそうな顔をした不動産屋さんに案内されるがまま、住宅の内見を済ませ、気に入ったから即決して契約を済ませたのさ。
こうして、あたしは新生活に大きな胸と同じくして期待を膨らませ、そのまま時が流れてあっという間の入学初日。
この日からあたしは、期待通り、むしろ期待以上に最高の青春を過ごすことになるなんてね。
最高のご縁と幸運に導かれるがまま、狐顔美人のドイツ系関西人と出会ったその日から、後の親友が出来たって話さ───。
◇
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