第36話 教会の秘技

《ある国の王の間》


 「勇者召喚の儀式?

何なのだそれは?」


 王は教皇の言っていることがわからずにいる。


 周りの宰相や大臣たちも『勇者召喚』に聞き覚えがないのか首をかしげている。


 「勇者召喚の儀式とは異界から強力な力を持つ勇者をこの世界に呼び出す教会の秘技にございます。」


 教皇は自身満々に『勇者召喚』について説明する。


 「強力な力を呼び出すのはわかったが、呼び出したものが私たちの言うことに従うのだろうか?

反抗などされることがあれば、新たな脅威を生み出すだけなのでは?」


 王は『勇者召喚』の危険性について教皇に尋ねる。


 「ご安心を教会には勇者たちを従える秘技がございますので、その心配はありません。

 必ず勇者はこの国の役に立ちます。」


 教皇は勇者に危険性はないと言い切る。


 「強力な力を持つとは言え、勇者があの七天に通用するのだろうか?」


 王は七天に匹敵する実力者など本当に呼び出せるのか疑問だった。


 「過去の記録を見るに勇者の力はあの七天に引けを取らないほどだと間違いありません。

もしかしたら魔王に匹敵する力を持つかもしれません。」


 ざわ、ざわざわ、ざわ


 ざわ、ざわ


 その教皇の言葉を聞いて皆驚きを隠くせないでいた。


 「王よ、『勇者召喚』をするべきです。

勇者ならもしくはあの忌々しい魔族どもを駆逐できるかもしれません。」


 勇者に希望を見出した軍務大臣は興奮したように王様に直訴する。


 「勇者なら魔族を駆逐することも不可能ではないでしょう。」


 教皇も王様に言う。


 「うぅ–む。

『勇者召喚』をすることにする。

本当に安全なんだろうな?」


 王は教皇に再び念押しする。


 「はい。

勇者が私たちに危害を加えることは絶対にありません。

女神フローリアに誓えます。」


 王は安心したように頷き。


 「わかった。

其方を信じよう。

して『勇者召喚』はどのようにやるのだ?

今は戦争のことであまり裕福ではないからあまりに高価だと…」


 王は気まずそうに言う。


 財務大臣も同じ気持ちだったのか、真剣な顔で教皇を見る。


 すると教皇は笑顔で答える。


 「ご安心を。

用意するのはたった1つだけです。

それは…





           聖女の命です。」


 教皇の顔は笑顔に見えながらも狂気に満ちていた。

         •

         •

         •

         •

《城の離れにある塔》


 ここでは、1人の女性が軟禁されていた。


 「私はいつまでここにいるのかしら…」


 彼女は聖女として連れてこられてからずっとここに閉じ込められていた。


 その女性は全身が病気的に白く目が真っ赤だった。


 まるで人間ではないと思うほどに。


 聖女とは人間たちの中で生まれる強力な回復魔法が使えるもののことである。


 魔術は後天的に身につけるのに対して魔法とは先天的に身についてる力のことを言う。


 魔法を使えるものは魔法使いと呼ばれ、

魔術よりも遥かに強力である魔法をつかうことができる。


 魔法使いは魔術を使えないと言うデメリットはあるがそれを補ってあまりある能力を有する。


 魔法使いは生まれること自体が稀で非常に数が少ないが、ほとんどの魔法使いは広く名が通っていて皆、実力者である。


 魔法使いが使える魔法の特性は個人で異なるが回復魔法を使えるのは世界で1人しか生まれない。


 しかもさらに条件がありそれは人間であると言うことだ。


 しかし、今代の聖女である彼女は純粋な人間ではなかった。


 そう何と言うことか、彼女は魔族とのハーフである。


 なぜ、教皇が聖女の命を奪うことに何の躊躇いもないのか。


 それはこれが理由だ。


 教会としては悪である魔族とのハーフなど聖女であっても看過できるものではない。


 ただ、『勇者召喚』で贄として使うために生かしているに過ぎない。

 

 彼女は、


『異端の聖女』 アリス=ビアンカ


 神の気まぐれに人生を狂わされた、可哀想な少女である。



 


 


 


 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る