第23話 重なるイレギュラー

《くーちゃん》


 漂海王アプサラスは海王種の中で唯一の特徴が有る。


 それは寿命が存在し、寿命を過ぎると子供を産み世代交代を行うことである。


 基本的には海王種ほどの最高位の魔物には寿命は存在しない。もしくはあるのかもしれないが悠久にも近いほどの寿命を持っている。


 最高位の魔物は体が大気中の魔力との親和性が高いため、倒されたとしてもそれは体が小さい魔力となりバラバラに散らばるだけである。


 そのため、とても時間がかかるが復活することが出来るのである。


 海王種はこれまでずっと同じ個体である。


 その中でアプサラスだけが新しい個体に入れ替わっているので有る。


 アスタはなぜ、海王種などと言う最高位の魔物と従魔契約をできたのか。


 アプサラスはアスタを最初に見て思ったことは、


 『僕のお父さんだ〜』


 そう、アプサラスはアスタのことを自分の親だと思っているので有る。


 生き物は生まれてばかりの頃に初めて見た相手を親だと思う習性がある。


 それは『刷り込み』である。


 本来は海王種ほどの魔物に刷り込みがおこることなどほとんどなく本当に生まれた直前くらいだ。


 アプサラス自身、子供が知らない相手を親だと万が一にも思わないように周りに生き物がいない深海に隠れて子供を産むので有る。


 しかもアプサラスはしっかりと周りを魔力探知までして周囲に生物がいないことを確認して、アプサラス自身が高いステルス性能があるため誰にも知らせずに子供を産む。


 しかし今回はイレギュラーが重なった。


 まず一つは自らの海域からカリュブディスが出てきて空間を歪めたことである。


 カリュブディスは海上とある程度の深さまでの海中の空間を歪めたが、アプサラスがいた深海までの空間には干渉していなかった。


 そのためアプサラスは上の異変に気づかず、空間が歪んでいる範囲をうまく魔力探知をすることができなかった。本来のアプサラスならできただろうが、寿命が近く弱っていたためできなかった。


 もう一つは『完全なる休日』の効果である。


 アプサラスは上から降りてくる生物についてはあまり気にしていない。ほとんどの生物は深海の圧力に耐えられるものはいないからである。


 アスタは雑魚である。普通なら深海の圧力でぺちゃんこである。


 しかし、宝具のおかげで圧力に耐えられてしまったのだ。


 この二つのイレギュラーが重なったことでアスタはアプサラスの子供が誕生する瞬間に立ち会うことができたのである。


 そして生まれたばかりのアプサラスはアスタを親だと思っているのでアスタが何も考えずに名前をつけた時に何の代償もなく従魔契約を行えたのである。


 アスタ=レスターは実力はないが運だけは持っているのかもしれない。


 本人は全く気づいていないが…

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《帰還中の船》


 今、俺の肩には体を小さくしたくーちゃんが乗っていた。

  

 「ぷ〜」


 機嫌が良さそうに触手を動かしている。


 「それはつれて行くの?」


 レインはくーちゃんを見ながら言う。


 「なんか離れてくれないんだよね。」


 くーちゃんが海王種だとわかったらマジで怖過ぎる。普通に肩に乗せてるが内心ぶるぶるである。


 もし機嫌を悪くしてしまったら俺なんて瞬殺だろう。


 「ぷっぷ〜」


 あとでお菓子でも献上しよう。

 

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