幕間3 『御坊吾鷹』の苦悩、『脇役』への難問

「もしかして……」「ひょっとしたら……」

そんな『もしも』というものが自分の身に起きたなら……、そんな妄想に浸るのが人間であり、自然な事なのかもしれない。いや人間に問わずそんなのが『死神弁慶』にもあるのなら……



「……🎵」

「……✨」

「……💢」

(……この状況は、何~~!?)

心の声を出さすにはいられなかった。何せ、私にもこの状況の整理に多少の時間がかかっている為だ。落ち着け、一旦現状を整理しよう。



 ナイトウォークが始まったのは先ほどのこと。地図を頼りにチェックポイントとされている場所に向かい、そこに隠されているカードを探す。そのカードには番号が割り振られており、『1』から『100』までの数字が記載されている。それぞれチェックポイント三ヶ所をまわり、最終的に班合計で一番数字が高いものには後期で使える学生食堂3000円分の食券が班全員に贈呈されるのだ。そのため、男子共にとっては一番のメインイベントであろう。そしてそんな張り切る彼ら以外にもそれ以上に張り切っている者達もいた。それが女子、特に元君LOVE隊の皆さんだ。このナイトウォーク、夜の森林をぐるっと一周して抜けていくということもあり、このナイトウォークで可愛く「きゃあ、怖いよぉ❤️」と言えばどこからともなく彼が颯爽とやって来て正に王子の様に助けてくれる……そんな噂がこの課外授業中に出回ったため、いかに元のチームと近くなれるかと虎視眈々に順番を狙って、目をギンギラとしている。まぁ、そんなことは私には関係ないのだが。そして、私のペアの番が来てナイトウォークが始まった。このままチェックポイントへ向かい、ゴールして後は結果を待つ、完璧な平凡な終わりをむかえる……はずだった。


 ……はずだった、のだが。 

「……あの、質問なのですが。何故、ここにいるのでしょうか?」

それは、私の両腕にガッチリとホールドした人物への問いかけである。それも二人。

「え~っとね?あたしはね、みんなと楽しくおしゃべりしながら歩いていたんだけど、少しあたしが地図を読むのに没頭してたら置いてきぼりにされちゃって。どうしようかなぁ……、って思っていたら丁度近くから御坊君の声が聞こえたから、もしかしたら……って思って来たら、やっぱり御坊君だ~って感じかな?」

「……いきなり茂みから飛び出して来たときには少し驚きましたよ、堺さん。」

私の右腕にしっかりと抱きつき、彼女は元気に応えた。

「……ボ、ボクはこういう怖いのは苦手で本当は行くつもりはなかったのですが。だからと言って、何だか班の皆さんと離れるのも変かなと思って付いてきたのですが……、その……あまりにも不気味過ぎて声もあげられず、動けなくなってしまいまして……。どうしよう……、と思っていたら後ろから聞き覚えのある声がして。もしかして……と思ったら御坊さんだったので安心してしまいまして……。」

「……私の顔を見て、いきなり泣かれたのでまたやってしまったと勘違いしてしまいましたよ、米原さん。」

左腕に優しく寄り添う形に自身の腕を絡め、彼女は応えた。


 ……つまり、今の私は二人の女の子に両腕を奪われている状態である。しかも、面識のある二人だからこの状態を理解するのに余計ややこしくなってしまったのだ。

「あの……、二人共、そろそろ離れてもらってもよろしいですか?」

「え~?なんで?良いじゃん、もう少しこのままでも!」

「ボクも落ち着くまで、このままでお願いします。」

……ダメだ、離れる気が全くしない。それよりか、抱きつく力が強くなっている。

「あの、そろそ……」

「そろそろ離れてもらっていいかな?💢」

私が話しきる前に聞こえる声。その声は見なくてもわかるぐらい怒りの感情が伝わってくる。

「あなた達、彼が困っているのがわからないの?離れてとお願いされたのなら離れるのが普通の動作じゃないのかな?💢」

もう一人この場にはいる。私の斜め後ろを歩いていたその人物、十津川さんの声である。

 ……しかし、なんでここまで怒っているんだ?普通、私にこんなことしていたら、「なに馬鹿なことやっているの!?」とか「早く離れなさい、命が惜しくないの!?」とか言われてもおかしくはない。いや、近づかないのが正しいのではないのか?とわかるぐらいのことをしているのに、なんで十津川さんは怒っているのだろう?


……それよりも、何がどうなってこんな状況になってしまったのだろう。私は、改めて過去の記憶を呼び起こし、今までもやったことのないぐらいの頭フル回転で思い返すことにした。

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