第5話 『脇役』とヒロイン(たぶん主役の)、共演

「よし、みんな集まったね!」

元の集合号令に私たちの班員が首を縦に振った。

現在、午後7時頃。あと10分もしない内にそろそろオリエンテーションが始まる時間となる。皆さん、ワクワクとドキドキの最高地点になっているようで夜なのにハイテンションだ。

「……ふぅ。」

この雰囲気も吹き飛ばせるのではないのか。そんな私のため息は、しかし誰の耳にも届いていないだろう。

それもそうだ。この場所についてからといい、私は元のたてた作戦をものの見事に避けてきたからだ。テント設営から自由時間、そして夕食のカレー作り。それぞれ私は参加しているようにみせて、何かと一人で黙々と作業を行っていた。テントはみんなが張り終わった直後にペグを打ち、カレー作りは配給された玉ねぎやじゃがいも、ニンジンの皮をささっと剥いていた。悲しくも私と同じグループになった二人もお礼こそは聞けなかったが、ビクビクと怯えさせることもなく活動できたのではないかと思う。……まぁ、自由時間については特に何もなかったので割愛させてもらいますが。

「……しかしさ。」

班員の男子が元に愚痴にも聞こえるような話し方で話す。

「どうしたの、気分でも悪くなった?」

元が訪ねると男子は首を横に降りながら

「違うけどさ……。いや、せっかくのオリエンテーションが『ナイトウォーク』だというのにペアがこうなるとはと思ってね。」

こうなるということに対して改めて納得いっていないご様子。……まぁ、かという私も納得していないわけではないが、むしろ不安しかないからだ。


あの日のペア決めの際、公平をなすためにそれぞれ『1』『2』『3』と書かれた紙を二枚ずつ用意し、同じ番号同士をオリエンテーションのペアにしようとなったのだ。それぞれ机に混ぜられ置かれた紙を取っていく。そして先に引いた人がそれぞれ『1』と『2』を引き

『1:元&班員男子』

『2:元君LOVE隊員女子A&B』

となった。そうなると私は必然的に『3』を引いていることになり、なおかつ残りの女子が『3』を引いていることになり……


「今更でしょ?それとも今からでも私と交換でもする?」

私のペア相手、十津川奈穂とつかわなほが口を開いた。

「……遠慮しておきます。元と一緒に楽しみます。」

すいませんと言わんばかりの素直さ。彼女はかけているメガネを整え直して、ふぅとため息をついた。

彼としては元君LOVE隊員の二人に対してなげかけ、あわよくば交換してもらおうとしたのであろう。

しかし、当の二人は

『『元君と一緒にペアにはなりたかったけど、二人きりになると失神しそうなので遠慮しておきます!!』』

と息のあった正直なお断りの一言をペアが決まった時点で言っていたので無理であろう。

渋々、元の隣に立つ彼をみて

(……まぁ、私よりかは元の方が良いぞ。)

と自分で思っておいて虚しい感情になる。……いや、一番虚しいというか残念なのは十津川さんであろう。私なんかとペアになり、オマケにペアを変われるチャンスが失敗してしまったのだから。横目で隣に立っている十津川さんを見る。表情からは読み取れないが、きっと嫌なんだろう。グループでの話し合いやペア決め、先程までの活動においてもただ黙って元の話をじっと聞いていたのだ。彼女だって元の事が好きなのであろう、けれども私はこれまで彼女が度を越えた感情を出したところを見たことがない。きっと元にLOVE隊と同じようには見られたくはないのだろう。なにせ、十津川さんはクラスの中でもクール系女子。成績も元と同じ位、クラス副委員長も勤める優秀さ。そりゃ、近くに元がいても簡単にははしゃげないな。

「……何?」

私の視線に気付いたのか、冷たい目を向ける彼女。

「……何でもないです。」

「……そう。」

……怖いです。死神弁慶(自分で言っていて悲しい……)でも怖いです。

……嫌なんだろうな、私とのペアは。そりゃ私よりも他の男子の方が何億倍もマシなんだろう。けれど、正直に言うと私は彼女とペアで良かった……と考えている。だって、元君LOVE隊員の二人のどちらかになれば、とんでもない阿鼻叫喚の結末をむかえるのは確かだ。そうしたら、少しでも嫌という表情を出していない十津川さんとならば特に何事も無くオリエンテーションは終わるであろう。……しかし、本当に彼女は私なんかで良いのだろうか?ペアが決まった時も「よろしく。」と一言言われただけなのだか。

……もしかして、

「……っと。」

いかんいかん、そんなことを考えてはいかん。彼女の私への好感なんて無なんだから(あんな目をされたらそりゃねぇ……)。変な期待をするな、私。



「よし、全員いるな?これより『ナイトウォーク』を始めるぞ。」

先生の号令がかかる。

淡い期待など無い。とりあえずはこのナイトウォークを何事も無く自然に終わらせるんだ。

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