幕間2 『死神弁慶』、ただいまメイソウ中……

『誰もその名を呼んではいけない』、なんて有名な魔法学校を舞台にしたイギリス文学の敵役の登場人物ではないのだが、私のクラスにおいても『その名を呼んではいけない』名前がある。その名は『死神弁慶』。……って私のことなんですけどね。

「……はぁ。」

今は課外授業先へ向かうバスの中。後ろでは見なくてもわかるぐらいの大盛り上がり具合になっている。……すごいよな、元。やっぱり顔、なのかな?いやいや、それだけじゃないと思う。やはり性格もか?


元は出会った頃から優しかった。私は人見知りで引っ込み思案な幼少期だった。あまり外に出ることなく、だからといって何をすることなくただ部屋に籠っていた。転機としたら小学生だったある日の放課後、遊ぶ人数が足りないということでクラス内で遊びたい人を募集をしていた時だっけ。

「御坊君、君も参加しない?」

帰る準備が終わって教室を出ようとした時だった私。そして初めて元と話をした時。

「……えっと、僕は。……その。」

なんともいきなりだったので言葉が出てこなかった。けど、それでも彼はじっと私の言葉を待っていた。

「……うん。」

「ホント!?じゃあ、一緒に行こう!!」

にっこりとしたその顔は、誰とも分け隔てなく平等に接してくれる姿だった。


(……あの時から、元は優しかった。)

だから、無理をしてまで私に親身に接してくれるのだろう。『死神弁慶』と呼ばれてしまっている私でも。

「……あ。」

そんなことを思い出したとき、忘れていた記憶の片隅にあった一言を思い出した。


「なぁ、元。本当にこいつ誘うのか?」

あの時、たしか元の近くにいた男子だったかな。あの頃は無意識なのかそれとも本心なのかわからないがあの男子は

「やめようぜ。だってこいつ、『死神』なんだからよ。」

と言った、言っていた。

……そうか、あの頃から『死神』ってあだ名がついていたんだっけ。誰とも接することもなく、感情を抑えたまま生活していたらそんなことも言われる理由は……あるな。

けど、言い訳をするのであればあの頃の私は仕方がない環境にたたされていた……と言ってしまえばそうなのだろう。とにかく、私は既にいた。無口で感情のない『死神わたし』は既にいた。

「……それでも。」

それでも、元は、彼は……

「ちょっと、僕らは同じクラスメートだろ。そんなことを言っていいの?ダメに決まっているだろう。」

「……けどよ。」

「けどもだっても無い!僕たちはクラスの仲間だろ?だったら、仲間として友達として誰でも仲良くするのが大切なんだよ。」

こんなこと言われたら、「元のくせに生意気な」と言われガキ大将とその仲間にいじめられ、そこにどこからともなくネコかタヌキみたいな未来の青いロボットが現れ、ポケットから素敵な道具たちが……とはいかないが、ともかく目の敵にされるのではと思うが彼は違った。

「……元がそこまで言うなら、仕方ねえな。わかったよ。」

と引き下がった男子の姿を見たとき、彼はこのクラスの、いや人生の主人公的立ち位置にいるんだなと思った。魅力、統率力、センス……元は最初からその個性を持っていたのだろう。


(羨ましい、と思ったっけ。私にもそんな力があったらな……と考えたっけ。)

始めて友達として仲良くしようと言われたときには嬉しかったし、彼の力を見たときにはカッコいいと思った反面、羨ましいという陰の部分も出てたな。

そんなことを思い出していたら、

「よし、あと少しで目的地に着くぞ。降りる準備しておけ。」

と言う担任の号令。

「えっ。」と言う私の驚き。少し昔の頃を回想しただけでものすごい時間が経っていたとは。降りる準備を整え、

『色んな意味でメイソウ中』

と心の中で言っているとバスがゆっくりとスピードを落としていく。



……さて、ここからが本番だ。

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