第4話 『脇役』の出演~騒動は朝から~

「おはよう。早速だが、到着した人から順に荷物を預け、バスに乗車。素早く、素早くだぞ!」

生徒指導担当の先生の声か朝の校庭に響く。早朝6時半、多くの生徒が寝ぼけ眼を擦りながらも登校してきている。

「ちなみに、バスの座席は自由だからな。ただし、早く来た者からどんどん乗ってもらっているからな。男子ども、女子の隣に座りたかったらもう少し早く家を出るべきだったな。」

カ~ッカカカ、と笑う先生をほとんどの生徒は冷たい眼差しで返答していた。

私も荷物を預け、バスへと乗車する。ついにこの日が来てしまった、と言うと周りからバッシングを受けるので口は閉じておこう。……元は、この課外授業で私を安心な人間ですよと(自分で言っていても、ちょっと何言っているのかがわからないが……)アピールしたいのだろう。そのためにあんな作戦まで練ってくれた。……けど、正直に言って私はこれには乗り気ではない。元の私に対する友情というのはありがたい、しかし逆を言えば周りの人間は「元は何故、あんな奴と一緒にいれて平気なの?」と不信される可能性が高い。むしろそうなりかけている。……私はあくまでも脇役だ。主役は元、それでこの物語は進んでいくんだ。

(元には悪いけどこの作戦、反故にするよ。)

そんなことを思いながら、バスの後方に目をやると、

「元君~、このお菓子さ、ちょー美味しいから一緒に食べよ~~♥️♥️♥️」

「あっ、抜け駆けずる~い。私のも食べて食べて~~♥️♥️♥️」

「なんか課外授業始まる前から、今日は幸せ~~♥️♥️♥️」

……なんか、出来上がっている。女子(元君親衛隊の皆さん)によって元を囲み、真ん中のシートにドンと彼は鎮座。後方は正に夢にまでみたハーレム状態。その夢の状況を前に追いやられたであろう男子達の妬み、羨みの目がなんとも悲しくさせてくれる。

「ありがとう。後でゆっくりいただくよ。もちろん、こっちのもね。」

いつも通りに女子達を持ち前の喋りと笑顔でさばいていく元。やっぱり出来ないな、あれは。そんなことを思い、空いている席を探していると、

「吾鷹!おはよう!!」

と元がすくっと立ち上がり、私に近づいてくる。

「……あぁ、おはよう。」

ニコニコの元が挨拶をしてくる。

「吾鷹、ついに当日だな!」

「……そうだね、当日だね。」

「……あれ?どうした吾鷹?何だか楽しそうに見えないけど?」

「い、いや、そんなこと、ないぞ。アハハハハ……楽しみ、だなー。」

……今の棒読みに聞こえたか?

「……そうか?それなら良いんだけど。」

何とか誤魔化せた。ふーっ、意外と神経使うな。

「じゃあ、吾鷹も一緒に座ろう。場所は……無い、ね。そしたら一人分空けてもらうようにお願いしようかな。」

「おーい!」と呼び掛けそうになった元を慌てて私は「元!!」と呼び、手招きをする。

「?どうした、吾鷹?」

「『どうした?』、じゃないよ!元、そこまでしなくても大丈夫だから!」

「えぇ、そんなこと言わないでくれよ。」

そして元はひそひそと言った。

「吾鷹、せっかくのチャンスだよ。このときから作戦はある意味始まっているんだ。」

「……だとしてもだ。」

こんなところで始められても、正直困る。

「お膳立てはバッチリなんだからさ。行こうよ。」

「……いや、良いんだ。私は大丈夫だから。」

……止めてくれ、と腹の底から言いたい。というか、私があそこに行くことは出来ない。元、よく見てくれよ、女子(元君親衛隊)の皆さんを。この世の終わりを見たような阿鼻叫喚なお顔をしていますよ。『来ないで!!』と言葉にしないでもわかる圧、すごいぐらいの圧、怖いぐらいの圧。……無理だって、これ。

「……そうか、だったら仕方ないな。」

しょぼんとする元、そんな彼を「また後で!」と言いながら先程の特等席に押し戻し、私はそそくさと空いている席を見つけて座る。



「ふぃ~」

それにしても今の私、結構慌ててただろうな。さらにはすごい顔でもしていたんだろう。だって、近くの席の男子どもの緊迫感がひしひしと伝わってくるんだから。「……コワッ。」「ヤバいヤバいヤバい!!」「……女子達のあんな顔、始めて見た。」「やっべ、なんか興奮してきた。」と言ったような声もちらほら。……?そういや、なんか変なこと言ったヤツいたな?……、まぁいいか。私には関係ないし。

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